棘皮動物の不思議な形

近藤 真理子(臨海実験所 准教授)

 

前々から,ウニやヒトデのような棘皮動物は不思議な形をしているなあと思っていた。たぶん誰もが一度はそう思ったことがあるのではないだろうか。それを言い出したら他の動物も,不思議な形をしていたり,不思議な形をしているパーツを持っていたりするかもしれないが,とくに棘皮動物はグループ全体で面白い形をしていると私は思っている。

この面白い形は五放射相称とよばれるもので,いわゆる☆(星)型が基本である。棘皮動物はウミユリ綱,ウニ綱,ナマコ綱,ヒトデ綱,クモヒトデ綱の5つのグループに分かれている。でもどれも体のどこかに☆から派生した,5つの方向に放射状に相称なつくりをしている。また,共通して,体には炭酸カルシウムをベースにした内骨格があり,バリエーションとしてウニのように鋭いトゲをもつものや,一見すると植物のシダのように見えるウミシダのようなものや,テヅルモヅルのように無数の腕をもつものもある。

図: 不正形ウニの形。右はヨツアナカシパン,左はブンブクの仲間。


ところで,日本人は多くのウニを消費している。おもに食べられているのはバフンウニ,ムラサキウニ,エゾバフンウニなどであるが,これらはいわゆるウニらしいトゲトゲした丸っこいウニの形をしている「正形ウニ」とよばれる。雄も雌も殻の中に目立って見えるのは5つの生殖巣で,それをわれわれは美味しく頂戴しているのである。そのいっぽうで,「不正形ウニ」とよばれ,もっと扁平で,五放射相称ではなく単純な左右相称に見えるグループもいる。これらはカシパンやブンブクとよばれるもので,名前とは裏腹に,食用にはならないらしい。この数年,生物学科3年の学生には実習で「不正形ウニ」であるタコノマクラやスカシカシパンを解剖し,構造を見て,五放射相称であるかどうかを探らせている。バフンウニやムラサキウニは殻を割って食べられることは,テレビのグルメ番組などでも紹介されるが,スカシカシパン(図左上)などは殻が固く,簡単に割ることはできない。そこで,実習に使う器具として大工道具ののこぎり,ニッパー,金切りバサミ,キリなどを用意する。これまでピンセット,ハサミ,メスでマウス程度を解剖していた学生にとっては新鮮な光景だろう。では,五放射相称は見えるのか?種明かしをすると口の部分である「アリストテレスのランタン」とよばれる構造は五放射相称の形をしていて,まさに☆型である(図左下)。こんな美しい形を内部に隠していたか!と,何度見ても感動する。しかし,これらのウニではとにかく切り開くことが精一杯で,生殖巣や消化管がどのように配置しているのか,私にはわからなかった。

そんな中,2018年6月,東京大学総合博物館にあるウニの標本を,ドイツから来られたアレキサンダー・ツィーグラー(Alexander Ziegler)博士と見に行った。Ziegler博士は世界中のウニの解剖をして,これまでに記載されていない器官をいくつも見つけている。ウニを解剖する方法の指導を受け,やってみることにした。殻の硬いウニは解剖が難しいが,殻が意外に薄いブンブクの一種の固定標本(図右上)をハサミで切り開くことができた。まず生殖巣が出てきて,ドキドキしながら構造を壊さないように結合組織を切って生殖巣を取り外すと,これまで見たことがない消化管が現れた(図右下)。不正形ウニの口は体の下側にあり,消化管はまず反時計回りに身体の中を一周し,そのあとまるで「2階」にあがるように上に上がってから折り返し,下の「階」の消化管に重なるように時計回りに3/4周して体の後方にある肛門へとつながっている。黄土色の部分の消化管には,生息している深海の堆積物に含まれている鉄の沈着があるらしい。これが私の初めてちゃんと確認した消化管の形態で,外見からはまったく予想できない,左右非対称で実に不思議な巻き方をする様子に驚きを覚えた。そのせいで,それ以来,研究室の学生や,他の研究者仲間,さらには築地の寿司屋の主人にも見せてまわる始末である。

どうして棘皮動物は不思議な形をしているのか,興味は尽きない。

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理学部ニュース2018年7月号掲載

 

 

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