「ラマン分光法(分光法シリーズ)」
平松 光太郎(スペクトル化学研究センター 助教)

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科学において新しい測定手法の発明は,周辺分野の景色を一変させるほどのインパクトをもつことがある。1928年にサー・チャンドラシェーカル・ヴェンカタ・ラーマン(C. V.Raman)らが発見したラマン散乱はその好例である。発見からノーベル賞受賞まで僅か2年という期間の短さも驚異的だが,発見後90年が経とうとしている現在においても新たな測定手法やさまざまな応用が日々開拓されており,研究対象としての息の長さ,裾野の広さも,その重要性を物語っている。
本書は,理学部化学科で第一線の研究を続けてきた著者によって書かれたラマン分光法の包括的教科書である。電磁気学に基づくラマン散乱の基礎に始まり,分光計を開発し,測定を行う為の方法論,さらに測定したスペクトルからいかに分子科学的知見を得るかという解析法に至るまでが,網羅的に記述されている。本書を読み込んだ学生・研究者であれば実際にラマン分光計を用いて測定・解析ができるようになっているであろう。
また,本書では,水島三一郎らによる回転異性体の発見など,ラマン分光法によって実現したきわめて重要な化学的発見も詳細に述べられている。実際のスペクトルとともに,データのどの部分に着目することでこのような化学的知見を得られるかが解説されており,読者が発見を追体験できる構成になっている。幾多のラマンスペクトルを読み解いてきた著者ならではの記述であろう。本書を手にすることで,新しい測定手法が科学の地平を拓いていく様子をぜひ味わってみて欲しい。
理学部ニュース2018年1月号掲載