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理学部ニュース

物理学専攻を修了後,私はいわゆる企業研究者として医療AIの研究開発に取り組んでいる。目指すところは,昨今問題になっている医師の労働環境や病院の経営状況の改善に貢献できるテクノロジーの実現にある。

学生時代は,日々バクテリアと戯れる研究生活を送っていた。興味の軸は「よくわからないものを定量化して理解する」ことにあり,学部4年次から博士課程まで,生命現象を物理学で理解する生物物理学の研究に取り組んでいた。ヒトと比べれば比較的理解しやすそうなバクテリアも,いざ自分で観察するとよくわからないものが次々に見えてくる。特に,私はバクテリアの集団挙動を顕微鏡で観察し,画像から特徴を定量化し,物理の理論・シミュレーションで再現して理解する,という流れで研究を行っていた。

現在は,医用画像や電子カルテ文書などの医療データを分析する深層学習技術の研究に従事している。一見,脈絡のない転換にも見えるが,今もヒトやAIを対象として「よくわからないものを定量化して理解する」研究を続けている。具体的には,深層学習モデルが画像診断を行う際の判断基準を定量化し,医師による判断基準と比較しながらモデルの理解を深める研究に取り組んでいる。最終的にはAIを作るのが仕事だが,臨床現場での実用に堪えるAIを作るには,その挙動を深く理解する必要がある。実際,社内外の当該分野では多くの理学系出身者が活躍しており,理学者が理学者として研究することへのニーズは高まっていると言える。

AIの研究自体も面白いが,Japanese Traditional Company(いわゆるJTC)での研究生活ならではの面白さもある。社内マニュアルがやたら長い,とかはさておき,Traditionalなだけあって社外とのコネクションが豊富で,いろいろな分野のキーパーソンとつながっているのは大きな恩恵の一つであると言える。私自身,さまざまな機関の医療従事者と一緒に仕事をする機会が多く,研究者としての視野を広げるきっかけにもなっている。社内にも理工だけでなく文理をもまたいだ多様な研究者がおり,分野外の話を比較的気軽に聞ける環境が整っている。

私がそもそもインダストリーに進んだ理由はさまざまあるが,せっかくならいろいろな世界で研究してみたいという好奇心が根底にあった。もちろん,分野を変えるうえで不安はあったが,アントニオ猪木氏の「踏み出せばその一足が道となる。迷わず行けよ,行けばわかるさ。」という精神で飛び込み,今のところはなんとかなっている。最近では,VUCAやらBANIやら,社会が不確実で予測困難であることを強調する言葉が流行っている。よくわからないものの本質を見極める理学力が求められる場は,AI研究に限らずインダストリーでも年々増えていると感じる。もし進路に迷われている方がいれば,アカデミア外の,さらに違った分野に少し目を向けて飛び込んでみると,新しい理学の世界が広がっているかもしれない。


米国で開催された医療画像分野の国際会議で
ばったり再開した元上司(右)も理学系研究科出身である