理学部紹介冊子
生命現象を原子から個体のレベルで理解する

実験実習風景,コンピュータ演習風景
生物化学科は,英語名「Department of Biophysics and Biochemistry」からも分かるように,生物学,化学,物理学の融合領域である「生物化学」という分野を対象として設立された学科である。この生物化学は,生物学はもちろんのこと,物理・化学や情報科学の知識までをも駆使して総合的な解析を行い,生命現象を原子レベルの原理から個体レベルの現象へ,総合的に理解することを目的とする領域であり,特に前世紀末から爆発的な発展を見せている生命科学分野の中心的存在となっている。また,近年のゲノム科学の発展に伴い,応用を視野に入れた医学薬学分野との連携が行われている点も特徴であり,生物化学の分野から創出された研究成果は,人類の科学知識を拡充するだけではなく,医学薬学分野を通して社会に貢献できる可能性も秘めている。
本学科では,このような生物化学の分野において第一線で活躍する研究者を育成することを目的とし,研究・教育を行っている。生物化学は学際的な分野であり,その基礎は,生物学,化学,物理学の分野にわたっているため,広いながらも専門的な各分野の知識が必須である。そのため,2年4学期は,生物化学という学問分野の展望を講義する必修科目以外に,主に生物学・化学・物理学科の講義を履修することで,基礎を身につける。3年生では,生物物理化学,生体物質化学,細胞分子生物学,分子生命科学など,生物化学の基礎となる専門的な知識が系統だって講義される。そのいっぽうで,専門を絞り込まず生物化学に関連する各分野を広く学習することが推奨されるため,生物学,化学,物理学科などの理学部他学科の専門科目を履修することが可能なカリキュラムとなっている。
生物化学は,実際に手を動かして験す(実験する)ことで,科学上の未解明の問題に挑む分野であるため,その実戦には実験技術の習得がひじょうに重要となってくる。本学科のカリキュラムは実験演習に重点を置いており,3年の午後からの時間はすべて実験演習にさかれている。いっぽうで,近年爆発的に増大しているデータベースや研究論文などに効率的にアクセスし,情報収集する技能も要求される。これらの技能を,コンピューターを使用した演習を通して修得する。
4年生になると,4月から学科内の研究室に配属され,卒業研究に取り組む。4年生に向けた講義は実質開講されないのも本学科の特色であり,単位を落としたりしなければ,講義に縛られることなくじっくりと卒業研究に打ち込むことができる。以下,実験や演習を中心に,生物化学科のカリキュラムについて詳述する。
講義
進学内定後の最初の半期(2年生4学期)は,専門科目を学ぶための準備段階として基礎事項を学修するが,必修科目は生物化学概論Ⅰ,Ⅱのみであり,さまざまな関連領域の選択科目から履修するようになっている。なお平成22年(2010年)度から,生物化学の必修・選択科目は主に本郷開講となっている。さらに,3年における講義には必修科目はひとつもなく,生物化学科が開講する講義もすべて選択科目となっており,この段階では専門を狭めずに幅広く学習することが推奨される。受講の自由度がひじょうに高い点が本学科の特色のひとつとして挙げられよう。
3年(実習実験)
本学科では3年次の夏学期に分子生物学・生化学の基礎的な実験技法の習熟を目指し(生物化学実験I),冬学期にその発展形としてより高度な内容の実験を行う(生物化学実験II)。
夏学期(生物化学実験I):
夏学期の実習は生物情報学科と合同で行っている。前半は生物化学科の教員が担当し, DNAやタンパク質を扱う実験を通じて,分子生物学・生化学の基礎的な技法の習熟を目指す。分子生物学的実験においては大腸菌の取り扱いやDNAの抽出・精製・組換えを,生化学的実験においてはタンパク質の定量,酵素化学,タンパク質の抽出・カラムクロマトグラフィー・結晶化,免疫化学的検出法,アミノ酸配列決定などを学ぶ。後半は生物情報学科の教員が担当し,DNAマイクロアレー・プロテオミクス・シーケンシング・シミュレーションなどのバイオインフォマティクス技術を学ぶ。これらの実験と並行して, PCを用いたプログラミングの初歩(VBA),タンパク質立体構造モデリングなどについての演習を行う。また,論文検索の仕方についても講義を設けている。
冬学期(生物化学実験II):
各研究室の特色を生かした実験テクニックやモデル生物を用いて,より高度な内容の実習を行う。具体的には,タンパク質の精製・結晶化,分裂酵母を用いた分子遺伝学・蛍光ライブイメージング,線虫を用いた機能ゲノミクス・分子イメージング,ゼブラフィッシュを用いた発生工学,マウスを用いた行動・遺伝子解析,哺乳類培養細胞を用いた分子生物学・生化学など,実際の研究現場に近い形でさまざまな実験手法を学ぶ。さらに,これらの実習内容の理解を深めるため,実習技法の原理や実際の応用例などの詳細な解説を,独立した講義(生物化学実験法)として行っている。また,放射線取扱者の資格を取得するため,受講者全員を対象に,アイソトープ総合センターにおいてRI実習を行う。
4年(卒業研究)
4年生になると,生命科学の分野で世界最先端のレベルの研究を行っている研究室に実際に配属され,より実際の研究に近いトレーニングを受ける(生物化学特別実験Ⅰ,Ⅱ,生物化学演習Ⅰ,Ⅱ)。研究室では,実験だけではなく,自分の研究に関連した情報の収集や,進捗発表や雑誌会などでのプレゼンテーションの技術を身につける。1年弱の研究だけではまとまった成果が得られる可能性は低いため,卒業論文は課されないことになっているが,そのいっぽうで,運が良ければ,国際英文誌に発表できるレベルの研究成果を達成する学生もたまにみられる。4年生の最後(2月中旬)には,卒業研究発表会が行われ,教員だけでなく学生も多く参加し活発な議論が行われ,楽しみにしている人も多い。そして,本学科で修得した確固とした基礎力と幅広い専門知識は,大学院で行う本格的な研究展開に大いに役立つこととなる。