トポタクティック反応

トポタクティック反応

近松 彰(化学専攻 助教)

トポタクティック反応とは,物質の基本骨格が保たれたまま,一部の元素が出入りする反応である。トポタクティック反応の例として,リチウムイオン二次電池の電極で起きる反応が挙げられる。電池の充電時にはリチウムがイオンとして正極(たとえばコバルト酸リチウム)から負極(おもに炭素材料)に侵入し,放電時には逆に負極から正極に戻る。この充放電の前後でこれらの電極物質の基本骨格は変わらない。この反応はトポタクティック反応の中で「挿入・脱離」の部類に入るが,他にも特定の元素やイオンを交換する「置換」,層状物質を付けたり剥がしたりする「接合・剥離」,ある元素だけ取り除く「抽出」などがある。これらの反応を利用した合成手法がトポタクティック合成である。この合成法では,無機物質でも比較的低温で反応が進むことが特徴のひとつである。

酸化物半導体や強相関電子系酸化物などの固体酸化物では,物質中の元素を置換することで物性が著しく変化する。陽イオンとなる金属元素などを置換した研究はひじょうに多いが,陰イオンである酸素を窒素やフッ素で置換した研究は少ない。これは,陽イオン置換は固相合成で容易に可能であるのに対して,陰イオン置換は通常は有毒で扱いにくいアンモニアガスやフッ素ガスを用いるなど技術的な困難があるからである。これに替わる簡便な陰イオン置換の方法として最近注目されているのが,有機合成に使われている反応剤を用いた固体酸化物のトポタクティック合成である。たとえば,水素化カルシウムを用いてチタン酸バリウムから酸水素化物を合成したり,フッ素樹脂を用いて層状鉄酸化物から層状鉄酸フッ化物を合成したりする報告が最近なされている。

本研究科化学専攻の長谷川哲也研究室では,トポタクティック反応を用いて,酸化物薄膜から酸水素化物,酸窒化物,および酸フッ化物の薄膜試料の合成を行っている。薄膜試料は体積がきわめて小さいため,トポタクティック反応は試料全体で進行する。すなわち,バルク試料では十分なトポタクティック反応が進行せず合成が困難だった物質も,薄膜試料で合成できる可能性を秘めており,新しい物質の合成や物性の発現が期待できる。