長周期地震動

長周期地震動

纐纈 一起(地震研究所 教授,地球惑星科学専攻 兼務)

「地震」を文字通り解釈すれば地面が震える(揺れる)ことを意味するが,専門家は揺れではなく,揺れを発生させる地中の現象を「地震」と呼んでいる。しかし,テレビで「○×地方で地震がありました」とアナウンスされるなど,「地震」を揺れの意味で使っている例も多い。これでは混乱するので,揺れを意味するときは「動」を追加して「地震動」とよぶことになっている。また,地震動も振動現象の一種であるから,振動の周期が存在する。長周期地震動とは周期が長い,ゆったりと振動する地震の揺れを意味している。

この長周期地震動が広く注目されたのは,2003年十勝沖地震の時である。震源から250 km離れた苫小牧市内で建物の被害がなかったにもかかわらず,大型の石油タンクだけが被害を受け,そのうち2基で火災が発生した。この奇妙な現象はメディアの注目を集め,取材を受けたわれわれは「地震動」や「長周期」のことを説明したが,報道ではふたつの言葉をひとつにして「長周期地震動」とされることが多かった。つまり,「長周期地震動」は「直下型地震」と同じくメディアの造語である。

大型石油タンクだけが被害を受けた原因はその後の研究で,タンクの固有周期と長周期地震動の卓越周期が合ってしまったことによる,一種の共振現象と確認された。当時,首都圏で急増していた超高層ビルは大型石油タンクと似た固有周期をもっている。もし関東平野で長周期地震動が発生すれば,それらが甚大な被害を受ける可能性が高いということで,研究者の注目も集めた。地震学は起きた現象を解析する経験科学の側面が強いが,長周期地震動の研究は実際に超高層ビルが被害を受ける前に研究者が危険性を予想して研究が進められたという特異な例になっている。

私の研究室では三宅弘恵助教や古村孝志教授,鳥取大学等の協力を得て,将来の大地震による長周期地震動をシミュレーションする研究を行ってきた。その結果,平野ごとに長周期地震動の特性が異なることや,南海トラフ沿いの付加体は長周期地震動を伝えやすい性質をもっているなどの発見があった。また,研究成果は「長周期地震動予測地図」としてまとめられ,政府の地震調査委員会から公表されている。