AGB星

AGB星

田辺 俊彦(天文学教育研究センター 助教)

星は誕生してから時間と共にその姿を変える。これを星の進化とよぶ。星は,始め水素Hの核融合(天文学では燃焼という言葉を使う)によってエネルギーを出すが,続いてHe,C,O,と順にその生成物を燃焼しながら姿を変える。C,O以後さらに重い核の燃焼が進まない星は中・小質量星とよばれ,質量が太陽の約8倍以下の星である。

AGB星は,中・小質量星の進化末期の姿で,中心核が電子縮退したC,Oからなり,その外側でHeの燃焼,さらにその外側でHの燃焼が起こっている星である。HR (Hertzsprung-Russell)図上で,赤色巨星分枝に漸近的に近づくかのように進化するので1970年ごろ漸近巨星分枝,すなわちAsymptotic Giant Branch (AGB) という名前が付けられた。中・小質量星が進化の過程でもっとも明るくなる時である。

AGB星は重元素合成に重要な役割を果たす。AGB星ではHeが少なくなると,Heによる核暴走(熱パルス)が起こり急激に明るさを増し,水素の層を外側に押しやって一時水素燃焼を止め,暴走後はいったん急に光度を下げ,水素燃焼のみによって徐々に光度を上げるという現象がくりかえされる。このくりかえしの度に星はどんどんと明るくなる。宇宙における重たい元素の合成は核融合のほかに,原子核が中性子を捕獲してそれが陽子に変わることでも起こる。この熱パルスは,このような元素合成を活性化させると同時にヘリウム層内に対流を発生させる。その結果,合成された重い元素は外側の水素の対流層と接触し星の表面までもち上げられるので,AGB星の表面は次第にこのような合成元素で富んでくる。宇宙においては一般に炭素よりも酸素が多いが,星の表面でこれが逆転している炭素星や安定同位体が存在しないテクネチウムが観測される星などは典型的な AGB星である。

AGB星のもうひとつの特徴は質量放出現象である。中・小質量星は最終的に白色矮星になるが,白色矮星の質量は最大でも1.4太陽質量(チャンドラセカールの質量限界)であるので,星は大部分の質量を進化の途中で失う。これが起こるのがAGBの最終段階の短期間であると考えられているが,その原因やメカニズムについてはほとんど分かっておらず,重要な研究テーマとなっている。質量放出の結果,星の周囲には固体微粒子が形成され,それが星の光を遮るため,AGB星は短期間,可視光線では暗く赤外線でのみ輝く赤外線星となる。筆者は天文学専攻の松永典之助教らとともに,このような短寿命の赤外線星の探査,研究を行っている。