古脊椎動物学

古脊椎動物学

對比地 孝亘(地球惑星科学専攻 講師)

古脊椎動物学は,一言でまとめると背骨のある動物 (脊椎動物) の化石を研究する学問であるが,その研究対象は古生代の顎を持たない魚類から,恐竜などの爬虫類,われわれ人類を含む哺乳類まで多岐にわたる。また研究分野としても,分類,系統進化の推定,機能形態学など,実にさまざまなものが含まれる。古脊椎動物学という学問分野がいつから始まったかを特定するのは難しいが,たとえばニコラウス・ステノ (Nocolaus Steno) は1666年に,現生のサメを解剖することによりそれまで起源の定かでなかったサメの歯の化石の正体をつきとめ,化石は一般的に過去の動物の遺骸の一部であると明らかにした。これは科学的に脊椎動物の化石を論じたという意味で,古脊椎動物学の黎明期を代表する研究であるといえるであろう。その後この分野は18〜19世紀にかけて,ジョルジュ・キュビエ (Georges Cuvier) やリチャード・オーウェン (Richard Owen) などにより,比較解剖学と密接に関連しながら発達していった。化石の骨学的特徴を解釈するためには現生種・化石種を問わず比較解剖研究が重要であるという流れは,現在でも古脊椎動物学の基礎として受け継がれている。たとえば,鳥類は獣脚類恐竜から派生したグループであるという仮説は現在強力に支持されているが,さらに脊柱の骨学形態の比較の結果,鳥類型の特殊化した呼吸システムは基盤的な獣脚類によりすでに獲得していたことが推測されている。さらに近年では,このような比較形態学的研究に加えて,骨組織とそこに残された成長線の解析に基づく個体成長の研究や,現生動物から得られる解剖学的データを基にした軟組織の復元など,化石脊椎動物の生物学的側面の研究が活発である。いっぽうで,工学分野で用いられてきた有限要素法を応用した顎などの機能解析,CTスキャン技術を用いた化石の内部構造の研究,骨の中に保存されたタンパク質など生体分子のシークエンス解析など,他分野の技術を応用した研究も進んでいる。

本学では地球惑星科学専攻の筆者らの研究室においてとくに爬虫類を対象とした古脊椎動物学の研究が行われている。具体的には,CTスキャンデータに基づいた化石種の脳形態の解析や,筋骨格系の進化パターンに関するプロジェクトなどを進めている。とくに爬虫類の形態学的進化を明らかにするためには,現生種の解剖学的知見は必須であるため,化石と現生種の区別にとらわれることない比較解剖学的な研究に重点をおいている。このような手法により,たとえば鳥類に特有の首の筋肉形態の一部は,鳥類の進化するかなり前の獣脚類恐竜によりすでに獲得されていたことを明らかにしつつある。