重力N体シミュレーション

重力N体シミュレーション

吉田 直紀(物理学専攻 教授)

図1

1億体の粒子を用いたコンピューターシミュレーションで得られた暗黒物質の分布。一辺がおよそ1億光年の領域の中での暗黒物質を表しており,図の明るい部分には暗黒物質が集中している。

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宇宙には大小さまざまな天体があり,それらが形成される過程でもっとも重要なのは重力である。宇宙の物質分布のほんの僅かな偏りに重力が働き,密度の高い部分に周りの物質がどんどんと引き寄せられる。こうして天体を生み出す材料が揃うこととなる。この過程の理論研究,さらに観測結果との比較のために威力を発揮したのが「重力N体シミュレーション」とよばれる大規模な数値シミュレーションである。よく知られているように,重力相互作用をする3体以上の物体は一般に解析的に解けず,多体問題は計算機シミュレーションを行うことが多い。

膨張宇宙の中で物質分布がどのように進化するのかは数値計算によって明らかにできる。原理そのものは単純であり,物質分布を多数の質量粒子("つぶつぶ")の分布で表現することで初期条件が与えられる。計算に使用する質量粒子の数を一般にN個, N体などと表現するため, N体シミュレーションとよばれるのだ。N個の粒子間の重力相互作用を計算し,運動方程式を時間積分すれば系の進化が得られることとなる。黎明期,1970年代には数百個の粒子を用いる規模だったが,最近ではN=100億,すなわち100億個(以上)の質量粒子を用いた計算も行われており,スーパーコンピューターを使用するアプリケーションのひとつでもある。宇宙論の分野では,N体シミュレーションにより宇宙の大規模構造が見事に再現され,標準モデルの確立に大きな役割を果たした(図)。国内では,重力,すなわち逆二乗則に従う力の計算に特化して回路を組んだ専用計算機も開発され,星団の進化や惑星系の形成の研究で威力を発揮している。

筆者の所属する物理学専攻宇宙理論研究室では,超並列計算機を用いて大規模なN体シミュレーションを行い,宇宙の大規模構造から星やブラックホールといった個々の天体の形成にいたるまで幅広く研究をすすめている。