相関エレクトロニクス

相関エレクトロニクス

髙木 英典(物理学専攻 教授)

固体中の絡み合う電子,すなわち相関電子の物理は,物性物理における研究の大きな潮流を形成している。これに基づき発現する革新的なデバイス機能が,「相関エレクト二クス」である。

相関電子が活躍する典型的な舞台は,遷移金属酸化物である。そこでの電気伝導や磁性の担い手は,空間的な拡がりの小さいd軌道を占める電子である。二つの電子が同じ軌道に入ると強いクーロン斥力が働くので,それを避けるように互いに絡み合いながら動かざるを得ない。その結果,相互作用する原子や分子が物質の三態を形成するように,相関電子は固体中で,電子固体・液体・液晶とよばれる多彩な相を形成する。銅酸化物の高温超伝導現象(理学のキーワード2008年9月号)もその一例で,電子固体の融解や電子液晶相の形成が,超伝導発現の本質であるとされている。相関電子の示す新奇な相を開拓し,相形成のメカニズムを探ることが,基礎科学として相関電子を研究する大きな目標である。

多彩な電子相は,互いに微妙なバランスで競合している。そこでは電荷,スピン,軌道と多くの自由度があるため,しばしばエントロピーが高い状態であり,突くと固まったり溶けたりするのと同様,電場や磁場に対して,劇的な相変化を示す。ここが相関電子という現象と,エレクトロニクスという実用を結ぶポイントである。たとえば電場で電子固体(絶縁体)と液体(金属)の間をスイッチする抵抗メモリ(ReRAM:酸化還元反応との協奏で不揮発メモリとして動作),磁場で電子結晶を融解させる磁気センサーなどのデバイスが提唱され,一部は実用化に向けた研究も進んでいる。新タイプの熱電変換材料や,電子氷とよばれる蓄熱材料など,相関電子の高いエントロピーを用いた熱機能にも注目が集まっている。

半導体デバイスの微細化が進み,ナノの世界に入ってくると,デバイス当たりの電子数が極端に小さくなり,原理的な困難に直面する。これに対して相関エレクトロニクス材料のベースは金属であり,電子の数が十分に大きい。このため,ナノデバイスの抱える原理的な困難を解決する新しいアプローチになっている。理学系研究科では現在,多彩な相関電子相の研究を,理論では物理学専攻の青木研究室や小形研究室,実験では物理学専攻の藤森研究室や高木研究室,化学専攻の長谷川研究室などが進めている。基礎的な興味が研究の中心ではあるが,強相関エレクトロニクスへの(意外な)展開が意識されている。