銀河間物質

小林 尚人(天文学教育研究センター 准教授)

宇宙には無数の銀河が存在するが,その銀河と銀河の間には写真をみただけでは何もない無味乾燥な空間が拡がっているように見える。しかしそこには,さまざまな原子・イオンそして電子から成るガス雲が薄く広く,かつさまざまなムラをもって存在しており,「銀河間物質」とよばれている。現在の宇宙に存在する普通の物質(バリオン)のほとんどは,銀河ではなくこの銀河間物質が占めると考えられている。また,銀河は137億年前のビッグバンから数10億年程度の間にそのようなガス雲が集まってできたと考えられており,銀河間物質を調べることにより,銀河が作られた過程やその進化を明らかにする貴重な情報が得られる。

銀河間物質の存在は,水素原子が放射する電波の観測により1950年代にすでに認識されていた。それが宇宙全体の広範囲に存在することが明確になったのは, 1960年代に次々と遠方に発見されたクエーサー(きわめて明るい銀河中心核;2012年5月号「理学のキーワード第36回」参照)のスペクトルを調べた結果,クエーサーとわれわれの間に存在する多数のガス雲による吸収線が普遍的に見られることがわかってからである。吸収線を用いると,銀河間物質の総量・密度・温度や化学組成などを高精度に求めることができるため,昨今の地上大望遠鏡の登場とともに,「クエーサー吸収線系」の研究は宇宙論パラメータにも制約をつける精密科学へと飛躍しつつある。

しかし,バリオンの約30%についてはどのような形で存在しているかがまだわかっておらず,現在最先端の観測的かつ理論的探求がすすめられている。物理専攻の須藤靖研究室ではそのような「ミッシング・バリオン」候補である高温のプラズマガスについての研究をすすめている。また,天文学教育研究センターの筆者の研究室では,通常用いられる可視光ではなく「赤外線」を用いて,今まで観測が難しかった銀河形成時のさまざまな重元素吸収線の観測的研究を精力的にすすめている。