グリーンケミストリー

宮村 浩之(化学専攻 特任助教)

グリーンケミストリーとは「環境に優しい合成化学」とも言われ,物質を設計し,合成し応用するときに有害物質をなるべく使わない,出さない化学を意味する。

化学は物質の性質を研究し理解し,新しい物質を作り出す学問であり, 19世紀以来その発展により人類は多大な恩恵を受けてきた。中でも新しい物質を作り出す合成化学の役割は大きく,医薬品,合成繊維,プラスチック,食品添加物,農薬や肥料,殺虫剤,洗剤,液晶など,日常生活での必需品の多くは合成化学によって作られている。20世紀半ばまで,合成化学者はいかに製品を簡単に,大量に,安く作れるかを重視しており,それに伴う環境への影響を軽視しているところがあった。ところが環境破壊,生態系の攪乱,公害,資源やエネルギーの枯渇といった問題が1960~80年にかけ浮上し,一部の人々に「化学=有害,危険」と認識されるようになる。1990年代になり合成化学者の意識が環境に向けられ,1998年にアメリカの化学者であるポール・アナスタス(Paul T. Anastas)とジョン・ワーナー(John C. Warner)によって「グリーンケミストリーの12箇条」が提唱された。この12箇条は合成化学者が,「環境への優しさ」を主眼に置いて物質や反応を設計するに当たっての道標である。たとえば,廃棄物を出さない,エネルギーや資源の消費を極力抑え,触媒反応を使う,人体と環境に害のない原料,中間体,生成物にする,原料は再生可能な資源を用い,使用後に環境中で分解できる製品にする,などである。

近年の研究例として,バイオマスを原料とした合成,回収・再利用可能な触媒の開発,水やイオン性液体,フッ素溶媒中での反応開発,エネルギー効率や資源効率のよい天然物や医薬品の合成などが挙げられる。有機合成化学研究室(小林修教授)においてわれわれは,金とコバルトのナノ粒子を高分子に固定化した触媒を用い,天然から入手可能な物質であるアルコールとアミンから,ナイロンをはじめとする素材,生体物質,医薬品などに見いだされる重要な化学結合であるアミド結合を直接生成させる方法を開発した。従来法では,有害な酸化剤と縮合剤が必要で大量に廃棄物が生じ,中間体を多くの試剤やエネルギーを用いて単離精製する必要があった。いっぽう,本手法は中間体の精製の必要もなく,空気中の酸素のみを消費し水のみが副生成物であり,触媒は再利用が可能であるという,グリーンケミストリーの理念に合致した革新的な手法である。