GPS

加藤 照之(地震研究所 教授,地球惑星科学専攻 兼務)

GPS(Global Positioning System)は人工衛星を用いた位置決めの技術である。カーナビや携帯にも使われていてすでに日常不可欠の技術となっている。GPSは地上高約2万kmを周回する24個以上の衛星から構成され,衛星信号を受信機で受信して3次元位置と受信機時計の誤差を正確に推定する。衛星からの信号は電離層や大気を通過してくるので,地上の位置を決めるさいにはこれらの伝搬媒質による影響が雑音源となるが,地上の位置を決めてしまえば,電離層(電子総数)や大気(水蒸気量)の状態を推定することも可能となり,固体地球科学だけでなく,地球電磁気学や気象学など,応用範囲は広い。このため,地球科学においてもっとも基本的な観測技術のひとつになりつつある。

GPSは1970年代より米国によって開発がすすめられた。当初は軍事的な応用が主体であったが,さまざまな民生用途が盛んになり,ロシアや欧州などでも類似のシステムが計画・整備されるようになって,今では軍民問わず人間社会の基礎的なインフラになっている。

1980年代頃より,精度が数m程度の簡単な位置決めに加え,衛星信号の搬送波を処理することにより1㎝級の高精度測位が可能となった。1990年代にはプレート運動や地殻変動が詳細にかつ高精度に明らかにされるようになり,固体地球科学に革命的な進歩をもたらすようになった。日本では,1995年の兵庫県南部地震を契機として全国GPS観測網(GEONET)が整備され,今では1200点を超える固定連続観測点が日本列島全体に整備されて地殻変動の監視に役立てられている。

この観測網によって,世界に先駆けて沈み込むプレート境界がゆっくりすべる現象"スロースリップ"が発見された。東海地方直下では5年という長期にわたってスロースリップが観測されて注目を集めた。地震研究所の地殻変動研究グループでは,このようなスローイベントを精度よく追跡するための新しい解析手法を開発してきたほか,GPS受信機を海面に浮かべたブイに搭載し,津波を沿岸到達前に検知して津波防災に役立てるシステムやGPSを地震計として活用する研究を行っている。