向背軸の極性

鳥羽 大陽(生物科学専攻 特任助教)

図1

メリステムと葉に分化する細胞群(図中*で示す)の模式図。両矢印は向背軸の極性方向を示す。

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植物の葉は表と裏で明瞭な違いが区別できる。この違いをつくる上で必要となるのが,向背軸の極性である。葉は,未分化細胞からなるメリステムというドーム状構造の周縁部から発生する。向背軸とは,メリステム側とその反対側を結ぶ軸であり,メリステムに近い側を向軸面,その反対側を背軸面とよぶ。いわゆる葉の表は向軸面,裏は背軸面に相当する。葉の発生では,ごく初期に向背軸に沿った極性が確立し,この極性に基づいてさまざまな細胞が分化する。表裏の表面構造の違いも,柵状組織や海綿状組織のような内部構造の違いも,この向背軸の極性に依存している。

向背軸の極性が失われた葉は,どのような形になってしまうのだろうか。突然変異によってこの極性が失われた,奇妙な形の葉をもつ変異体の研究が,数多く行われてきた。それらの研究から,葉は極性を喪失すると形が棒状となることが判明している。興味深いことに,棒状となった葉は,その特徴がすべて向軸面のものとなるか,あるいは背軸面のものになる。正常な表裏ができるためには,向軸面と背軸面の性質がいっぽうに偏らないようにバランスをとることが必要とされる。

向背軸の極性が確立し,向背軸のバランスが決まると,その境界が成立する。R. ウェイツ(Richard Waites)とA. ハドソン(Andrew Hudson)は,向軸側と背軸側の性質をもつ細胞が境界部分で並列することが,葉が平たい形になるための必要条件であるという仮説を提唱している。この仮説に基づくと,上述の向背軸の極性を失った葉は,その境界が成立しないために,棒状になると説明できる。向背軸の極性は,葉の表裏の違いだけでなく,扁平な形を作る上でも重要といえよう。

さて, 自然界ではネギのように,そもそも棒状もしくは筒状の葉をもつ植物が存在する。このような葉は,裏側しかないため,単面葉とよばれている。また,花の雄しべは葉が変形したもの(理学部ニュース2007年11月号「理学のキーワード第10回」参照)であり,その発生過程では向背軸の極性方向が大きく転換するため,扁平とはならずに棒状の形態をもっている。本研究科生物科学専攻の塚谷研究室では単面葉の形成機構と進化について,平野研究室では雄しべにおける極性転換メカニズムについて,向背軸の極性に注目した研究が行われている。