ガスハイドレート

松本 良(地球惑星科学専攻 教授)

ガスハイドレートとはその名の通りガスが水和(=ハイドレート化)したもので,水分子が作る12面体や16面体あるいは20面体のケージ中に,二酸化炭素や硫化水素あるいはさまざまな炭化水素ガスがゲスト分子として取り込まれた氷状の固体物質である。新しいエネルギー資源として話題に上がるものはゲスト分子がメタンから成り,メタンハイドレートとよばれることもある。メタンハイドレートは低温・高圧(0℃では26気圧以上)条件下でメタンガスと水が十分に存在すれば生成することが実験的に確かめられており,地球上では深海堆積物や永久凍土域に広く分布することが分かっている。彗星のコマの氷や火星の水の起源はハイドレートではないかとの指摘もある。海底の堆積物中には海洋生物の遺骸や陸上植物に由来する有機物が,数%から時には10%以上含まれている。これら有機物は浅部ではおもに微生物により,埋没深度数100m以深ではおもに熱によって分解してメタンやエタンを生成する。メタンやエタンの水への溶解度は小さく,地層中ではしばしば気泡として存在し,断層や浸透性の良い地層を通って浅部に移動,海底下数メートル~数100メートルにメタンを主成分とするガスが集積する。これが深海堆積物中のガスハイドレートの起源である。水深1000mの海底で水温を3.0℃,堆積物中の地温勾配を太平洋側の平均値3℃/100mとすると,メタンを主成分とするガスハイドレートが安定に存在できるのは海底から深度400m程度までである。つまり深部から移動してきたガスは400m以浅でガスハイドレートとして固定され,ガスハイドレートによって"凍結"した硬い堆積層が形成される。また日本海の一部のように深部からのガス供給がきわめて強い場合,海底下にガス移動通路として直径数100 mのチムニー状構造が発達する。ここを通る大量のガスは海底にまで達し,海底直下から数10mまでの表層堆積物中に塊状のガスハイドレート鉱床を形成する。これら海洋ガスハイドレートの資源化を目指して,日本をはじめ各国で資源探査プロジェクトが展開されている。いっぽう,ガスハイドレートの大量分解が温暖化を促進し,劇的気候変動を引き起こしたとする地質記録がある。筆者の研究室ではガスハイドレートの起源,分布,集積・分解の支配要因,環境インパクトと資源ポテンシャルの解明をテーマとした研究を進めている。

参考:地学雑誌118巻1号7-42頁(2009)