r-過程

櫻井 博儀(物理学専攻 教授)

宇宙開闢以来,われわれの身の回りの元素は宇宙・天体内で合成されており,なかでも「r-過程」は,超新星爆発などの爆発的な天体現象で生じる元素合成過程で,鉄からウランにいたる元素を創りだす。たとえば,貴金属の「プラチナ」や「金」はr-過程で創りだされた元素である。「r」は「rapid」の略であり,数秒で元素合成過程が終了する。

鉄よりも重い元素はどのように創られるのか? 鍵は中性子捕獲とベータ崩壊である。中性子は電荷がないため,クーロン障壁がなく,原子核に捕獲されやすい。原子核が中性子を次々と捕獲すると質量数が増え,半減期の短い中性子過剰な不安定核となる。不安定核がベータ崩壊すると核内の中性子が陽子になり,元素番号がひとつ増える。このように,中性子捕獲とベータ崩壊を繰り返して重い中性子過剰な不安定核が生成される。r-過程が終了すると不安定核はベータ崩壊を繰り返し,やがて安定な原子核となる。時間を巻き戻すと「金」のご先祖はr-過程でできた短寿命の不安定核ということになる。

r-過程は1957年にウイリアム・ファウラー(William Fowler)らによって提唱され,これ以来,天文学・物理学,理論・観測・実験と多岐にわたる学際的な研究が進められている。r-過程が起こる天体現象としては,大量の中性子が発生する重力崩壊型超新星爆発のほか,中性子星マージャーが提案されているが,実際どこでr-過程が起こり,どう終焉するのかわかっていない。爆発ダイナミクス,反応素過程,未知の原子核の質量・半減期に関する理論研究が進められ,これらの情報を組み合わせた数値計算により,観測で得られた金属欠乏星の重元素存在比,超新星残骸の元素分布,太陽系元素の質量比分布などを説明する試みが進められている。本研究科,天文学専攻・梅田研究室では星の形成と進化との関連でr-過程の議論が行われている。最近になってr-過程で創られる中性子過剰核を理化学研究所「RIビームファクトリー」施設で人工製造することが可能となった。筆者らの研究で,中性子過剰なZrやNbの半減期が理論値にくらべ約2~3分の1も短いことがわかり,従来よりも速くr-過程が進む可能性がでてきた。今後のデータ蓄積で宇宙での「錬金術」のありように一歩でも近づければと考えている。