超対称性

濱口 幸一(物理学専攻 准教授)

超対称性とは,フェルミオンとボゾンを入れ替える対称性のことであり,素粒子の標準模型を超える理論的枠組みの最有力候補のひとつである。フェルミオンとは整数+½ のスピンをもち,パウリの排他律に従う粒子のことであり,ボゾンとは整数スピンをもち,同じ量子状態に複数の粒子が入れる粒子のことである。例えば電子やクォーク(陽子などの構成体)はフェルミオン,光子はボゾンである。

1960~70年代に確立した素粒子の標準模型(クォークや電子などの素粒子とその間の相互作用を記述する理論)は素晴らしい成功を収めており,現在知られている高エネルギー実験のほとんどを矛盾なく説明することができている。標準模型の素粒子の中で唯一未発見であったヒッグス粒子(第6回理学のキーワードを参照)についても,ヨーロッパで稼働中のLHC実験で興味深い兆候が見えつつある。しかし標準模型には理論的に不自然な点,不完全に見える点があり,素粒子物理を記述する究極の理論であるとは考えにくい。とくに,自然界の基本的なスケールがひじょうに高いエネルギースケール(たとえばプランクスケール~1019GeV)にあるであろうことを考えると,ヒッグス粒子の質量注)がそれに比べてなぜ何桁も小さいのかが謎のままである(階層性問題)。また宇宙の暗黒物質も標準模型では説明できない。

標準模型に超対称性を導入すると,たとえばフェルミオンである電子やクォークの相棒として,ボゾンの「スカラー電子」や「スクォーク」,ボゾンである光子の相棒としては,フェルミオンである「フォティーノ」など,いずれも未発見の新粒子が導入される。こうして拡張された超対称標準模型は,(1)フェルミオンとボゾンの絶妙なバランスにより,上記のヒッグス質量に対する階層性の問題を改善する,(2)超対称性粒子のうちのひとつが,暗黒物質の候補となる,(3)標準模型ではバラバラだった3つの相互作用(電磁気力,弱い力,強い力)の強さが高エネルギーでひとつに統一され「大統一理論」の予言を再現する,といった魅力的な特長をもっている。さらに重力も含めた究極の統一理論の最有力候補である「超弦理論」も超対称性を必要としている。

実は超対称標準模型にも課題は多くある。またLHCでも超対称性の予言する新粒子の直接探索が精力的に行われているのだが,いまだその兆候は報告されていない。しかし今のところ超対称性理論が「標準模型を超える素粒子理論」の候補の中で頭ひとつ抜け出ていると言ってよいだろう。本研究科では素粒子論研究室をはじめ多くの研究室が理論・実験のさまざまな角度から研究を行っている。

注)
最新のLHCの結果によると,ヒッグス粒子が存在するならばその質量は115GeV~130GeV。興味深い事象超過が見えているのは125GeV付近。