Hoxクラスター

赤坂 甲治(臨海実験所 教授)

動物の体の前後軸に沿った構造のパターン形成を指令する一群の遺伝子であり,個々の遺伝子はhomeoboxとよばれる特有のDNA塩基配列をもつ。多くの動物では,Hox1Hox13 が,染色体上に,番号順に一列に並んでいる。また,発現する(遺伝子が働く)領域も,番号順に,体の前方から後方に並んでおり,Hox1 は体の前方領域の形成,Hox6 は体の中央部,Hox13 は尾部の形成というように,体の前後軸に沿って,それぞれの領域の形態に特徴を与える働きをもつ。Hoxクラスター遺伝子は,染色体上の並び順と,体の前後軸に沿う発現領域が一致するコリニアリティーがある。コリニアリティーは,5億年以上前の先カンブリア紀に分岐した旧口動物のハエと,新口動物のマウスの両方で示されたことから,すべての多細胞動物に共通すると考えられてきた。イソギンチャクなどの単純で原始的な刺胞動物にも,遺伝子の数は少ないが,Hoxクラスターが存在する。進化の過程で,DNAの複製・分配にミスが生じ,遺伝子が重複してHoxクラスター遺伝子の数と種類が増え,複雑な形態を獲得してきたと考えられている。しかし,新口動物に属し,ハエよりはるかにヒトに近いウニやホヤは,成体の前後軸が不明であり,頭部もないため,疑問に思われてきた。とくに,ウニやヒトデが属す棘皮動物は,星形の5放射相称の体制をもち,その独特の形態を生み出す仕組みに興味が持たれている。近年のゲノム解析により,ウニでは Hox13 が後方に転位していることが明らかになり,頭部の消失,脳・神経節の消失との関連が示唆された。ホヤもクラスター構造に大きな変化があることが示されたが,ホヤより脊椎動物から遠縁とされるナメクジウオでは,クラスター構造が保存されており,明瞭な前後軸がある。ヘビや,寸詰まりのフグの特徴的な形態も,Hoxクラスター遺伝子の関与が示されている。Hoxクラスター構造の変化は,体の大規模な構造の進化と密接に関連する。臨海実験所の近藤真理子准教授・筆者のグループは,ウニ,ナマコや,棘皮動物の祖先的形質を継承し,神経節(脳?)をもつウミシダを対象に,棘皮動物の体軸と,特有の5放射構造の形成にかかわるHoxクラスターの働きについて研究している。