アクシオン

蓑輪 眞(物理学専攻 教授)

アクシオン(axion)は存在が予言されながら未発見の素粒子で,わずかに質量をもつと考えられ,暗黒物質の候補となっている。 連続的対称性の破れにともなって発生する南部・ゴールドストーンボソン(理学部ニュース2006年5月号「理学のキーワード第1回」参照)の一種である。 素粒子の弱い相互作用では粒子と反粒子の入れ替えについての不変性(CP不変性)が保たれていないことが分かっている(小林・益川理論)。 原子核をまとめている力,すなわち強い相互作用においても,それを記述する量子色力学(QCD)の基礎方程式には,理論では決まらない任意の「角度」 に比例してCP不変性を破る項が含まれている。 ところが実験的には,強い相互作用においてはCP不変性が良い精度で保持されており,理論と実験が矛盾することから,「強い相互作用のCP問題」とよばれている。 1977年にR. ペッチャイ(Roberto Peccei)とH. クィン(Helen Quinn)は,「角度」変数 を素粒子の場に関係する量とみなしてそのまわりの回転対称性を要請した上で,その対称性が破れて自然に安定点 に落ち着くことで強い相互作用をCP不変に保つ仕組みを提唱した(Peccei-Quinn機構)。 この対称性の破れに対応して南部・ゴールドストーンボソンの存在が同時に予言されて,アクシオンとよばれている。

アクシオンは強い磁場とレーザー光によりアクシオンと光子の結合を調べる非加速器素粒子実験によって精力的に探索が行われているが未発見である。 また,身の回りに希薄な密度で充満し,宇宙の暗黒物質を形成していると思われるアクシオンを,強力な磁場中でマイクロ波に変換してとらえる実験が,アメリカおよび京都大学でそれぞれ行われている。 筆者の研究室では,太陽の中で発生すると考えられるアクシオンを超伝導磁石による専用の望遠鏡(愛称Sumico)で探索する実験が行われている(理学部ニュース2004年7月号「望遠鏡ものがたり4」参照)。