磁性半導体

福村 知昭(化学専攻 准教授)

磁性半導体とはその名の通り磁性をもつ半導体で,半導体程度のバンドギャップをもった遷移金属を含む物質である。 なかでも最近さかんに研究されているのは,通常の半導体に少量の遷移金属をドープした希薄磁性半導体である。 少量のドープのため母体の半導体のバンド構造が保たれており,空間的に離れた遷移金属のもつ局在スピン間の相互作用を(スピン1/2をもつ)キャリアが交換相互作用により媒介することで強磁性を生じる。 このような強磁性を示す半導体は,電子のもつ電荷とスピンの自由度の両方を用いて高機能な電子デバイスを実現するスピントロニクスなどの分野への活用が期待される。 たとえば,不揮発な情報であるスピンを磁場ではなく電気的な手段で制御することができる。 しかし,少量の遷移金属ドープでは交換相互作用の大きさも限られており,強磁性転移温度(キュリー温度)は最も高いとされていた Mn ドープ GaAs でさえ室温を約100℃下回っていた。

酸化物半導体は大きなバンドギャップをもつ。 すなわち可視光に透明だが良好な電気伝導性を示すため,液晶ディスプレイ内部の透明トランジスタなど透明電子デバイス材料として活用されている。 その大きなバンドギャップは酸化物半導体中のキャリア(主に電子)の有効質量が重いことを意味する。 したがって,酸化物半導体に局在スピンをドープすれば,キャリアと局在スピン間の大きな交換相互作用による高温強磁性の発現が期待でき,透明磁石材料の実現の可能性がある。 実際に,Co をドープした酸化物半導体TiO2の室温強磁性が2001年に発見された。 最近,電界効果を用いたキャリア量の増減による室温強磁性の制御が実現し,室温強磁性をキャリアが媒介していることが明らかになり,室温動作スピントロニクスへの道が開けた。 しかし,少量の Co 濃度で約400℃ものキュリー温度が発現する理由は今も明らかではない。

本研究科では化学専攻の長谷川哲也教授の研究室で,われわれが Co ドープ TiO2 の薄膜試料を作製して基礎物性やデバイス応用に関する研究を行っている。 物理学専攻の藤森淳教授の研究室では,放射光設備を活用した分光実験研究により Co ドープ TiO2 の室温強磁性の発現メカニズムに迫る研究を行っている。