超高圧

船守 展正(地球惑星科学専攻 准教授)

地球や惑星の内部は,探査機を送り込むことのできない超高圧高温の世界である。 その圧力温度は,地球中心で 360 GPa・6000 K,木星中心で 5000 GPa・20000 K にも達する(1 GPa ≒ 1万気圧)。 与えられた圧力温度環境下において,物質はギブスの自由エネルギー GUPV - TS を最小化するように振る舞う(U: 内部エネルギー,P: 圧力,V: 体積,T: 温度,S: エントロピー)。 地球表面では U が支配的であるが,地球や惑星の内部では PV 項(と -TS 項)の寄与が重要になる。 例えば,ケイ酸塩中のケイ素は,地球の上部マントルでは4個の酸素に囲まれた4配位の状態であるのに対し,下部マントルでは6個に囲まれた6配位になる。 これは,結合エネルギー的に有利な sp3 混成軌道から充填率の高い構造をとる上で有利な sp3d2 混成軌道への変化(圧力誘起相転移)として理解できる。 木星内部では,流体水素が分子解離して金属化し,ダイナモ効果によって強力な磁場を作り出しているものと考えられている。

超高圧科学の研究は,20世紀初頭のブリッジマン教授(P. W. Bridgman;1946年ノーベル物理学賞受賞)による 10 GPa 級の高圧発生装置の開発にさかのぼる。 20世紀後半には,ダイヤモンドアンビル装置が開発され,改良が重ねられた結果,現在では地球中心を超える 400 GPa 領域までの静的圧縮が可能になっている。 さらに高い圧力の発生もレーザー衝撃などの動的圧縮によって可能である。

超高圧の静的な発生は,小さな面積に大きな力を加えることで実現される。 高圧装置内の微小試料に対する測定に威力を発揮してきたのがシンクロトロン放射光X線である。 放射光源の高輝度化により,現在では結晶だけでなく,液体やガラスの相転移まで観察することが可能になっている。 さらに,次世代放射光源の計画が実現すれば,エミッタンスやコヒーレンスなどの光の質の向上も見込まれる。 その特色を活かした技術開発が進めば,物質の平均的な構造(規則性を持つ構造)だけでなく,詳細な構造のより直接的な測定が可能になるなど,飛躍的な発展が期待される。

筆者の研究室では,放射光実験のほか,ミュオン実験などに取り組んでいる。 理学系研究科では,中性子実験(地殻化学実験施設)や計算機による第一原理分子動力学シミュレーション(物理学専攻)など,様々なアプローチで超高圧科学の研究が行われている。