星間分子雲

山本 智(物理学専攻 教授)

星と星の間には,ガス(星間ガス)と固体微粒子(星間塵)からなる星間雲がところどころに存在する。 星間雲の中で最も密度が高く,水素が主に水素分子として存在するものを星間分子雲とよぶ。高いと言っても水素分子の個数密度は 102 – 106 cm–3 程度で,常温大気圧での個数密度 2.7×1019 cm–3 よりも著しく低い。 しかし,大きさは0.01 – 1光年,質量は太陽の質量の数10倍から数1000倍以上に達する。銀河系を見渡すと,質量が太陽質量の10万倍程度に達する巨大分子雲も数多く存在し,それらの総質量は銀河系の星の総質量の約1%程度を占める。 星間分子雲は数10万年から数100万年の時間をかけてゆっくりと自己重力で収縮して,新しい恒星と惑星系のもとになる原始星と原始惑星系円盤を生み出す。 われわれの太陽系も,46億年の昔に,そのようにして星間分子雲から生まれたのである。

星間分子雲の温度は10 – 100 K(–263℃から–173℃)程度なので,マイクロ波領域から遠赤外線領域の放射を観測して調べる。 星間分子雲には水素分子以外にも一酸化炭素,水,アンモニア,ホルムアルデヒドなどのさまざまな分子(星間分子)と星間塵が含まれている。 星間分子雲は,主にこれらの星間分子の回転スペクトル線や星間塵の熱輻射を電波望遠鏡や赤外線望遠鏡で観測することによって研究されている。 その結果,星間分子雲から太陽程度の質量をもつ原始星が誕生する過程については,詳細な理解が進みつつある。

星間分子雲には,エチルアルコールやギ酸メチルなどの比較的大きな有機分子まで,微量ではあるが存在していることがわかっている。 また,炭素が直線上につながった炭素鎖分子も特徴的に見られる。 星間分子雲の中心部では,含まれている星間塵のおかげで外部からの紫外線が遮断されるため,分子が壊されることなく成長できるのである。 無味乾燥とも思える星間空間でも,分子の豊かな世界が広がっている。著者の研究室では,星間分子雲における星・惑星系形成とそれに伴う分子進化を観測的に調べ,太陽系物質との関係を探っている。 星間分子雲は物理学,天文学,地球惑星科学,化学にまたがる研究対象であり,本研究科では他にもさまざまな関連研究が行われている。