可積分系

ウィロックス ラルフ(数理科学研究科 准教授)

ニュートンが17世紀にケプラー問題を解いて以来,それと同様に求積法で完全に解ける「完全可積分系」とよばれる力学系の探求が始り, 可積分系という概念は微分積分学と古典力学の発端に起源すると言っても過言ではない。 オイラー,ラグランジュやハミルトンによる古典力学の形式化に基づき,J.リウヴィル(Joseph Liouville)が19世紀半ばに求積法で完全に解ける発展方程式の構造を初めて解明したが,実は,その構造で初等函数で記述できる厳密解をもつ方程式はまれなものであるため,可積分系の研究は特殊函数論の発展にも大きな刺激を与えた。

いっぽう,求積可能という性質より方程式の解を生成する特殊な変換群の存在は近年「可積分系」というものの定義的特徴とされている。 そのパラダイムシフトのきっかけとなったのは,M.クラスカル(Martin Kruskal)と共同研究者が 1960年代に発見した非線形偏微分方程式であるKdV方程式の逆散乱法による解法である。 たとえば,KdV方程式の解に周期的な境界条件を課すと,方程式による時間発展はヤコビ多様体上の線形の時間発展に対応することは知られているし,一般には,KdV方程式の解が無限次元グラスマン多様体と関係し,解の時間発展はその多様体上の線形変換群に対応することは佐藤幹夫先生(京都大学名誉教授)による有名な結果である。

それは連続系ばかりではなく,可積分系の研究は離散系にも拡大した。 平面上の可積分な写像のプロトタイプであるQRT写像は,楕円曲線を定める保存量をもち,写像自体はその楕円曲線上の加法定理に対応し,他の可積分な2次元の写像は同様の代数幾何学的な記述を認めることが知られている。

コンピュータで可積分系を数値的にシミュレートすると,その系の可積分性を証明する性質はほとんど保たれていないため,最近,連続可積分系の忠実な離散化についての研究は非常に盛んであり,さらに簡単にシミュレートできる可積分なセルオートマトンも活発に研究されている。 数理科学研究科では筆者以外,時弘哲治教授(可積分なセルオートマトン),坂井秀隆准教授(離散パンルヴェ方程式)や白石潤一准教授(量子可積分系)らがこの分野の研究を行っている。