体外被曝と体内被曝

井尻 憲一(アイソトープ総合センター 教授,生物科学専攻 兼任)

体外に存在する放射性物質や放射線発生装置からの被曝を体外被曝(外部被曝)という。 γ線,X線,中性子線などの透過力の強い放射線では人体内部の組織まで被曝するが,β線は体表面で吸収されるため皮膚の被曝が主となる。 放射性物質から出るα線は極端に透過力が弱いため,通常は体外被曝の対象にはならない。

これに対し,体内に取り込まれた食物や空気中に含まれる放射性物質によって,体内から被曝する場合を体内被曝(内部被曝)という。 この場合はむしろ,透過力の弱い放射線(α線,β線)の方が被曝線量への寄与が大きい。 被曝が体内の組織のみに限られるからである。 とくにα線は短い飛跡内に集中してエネルギーを与えるため,細胞内のDNAに幾つもの損傷を密に生じさせる。 このため, DNA修復を行うタンパク質がうまく働けず,細胞への障害は大きくなる。

体外被曝を抑えるには,距離をとる,遮へいをする,作業時間を短くすること(体外放射線防護の3原則)が重要となる。 いっぽう,体内被曝を防ぐには放射性物質の体内への摂取を防ぐことが一番であり,テレビ映像でよく見る防護マスクや使い捨ての防護服はこのためのものである。

体内に入った放射性物質は壊変による減少(物理的半減期で減少)だけでなく,代謝,排泄によっても体内から出されていく(生物的半減期)。 体内の放射性物質は時間とともに減少していくが,残留している間は被曝が継続する。 被曝が放射線を受けているときだけに限られる体外被曝と異なる点である。 このため,体内被曝による被曝線量は体内に残留している期間の積分値で表す。 これが預託線量であり,放射性物質を摂取した時点において,その後体内に残留し続ける全期間に受ける被曝の総線量を前もって計算した値である。 1 Bq の摂取で積分期間を50年とした預託実効線量を実効線量係数といい,131I では2.2×10–5(mSv/Bq),137Csでは1.3×10–5(mSv/Bq)が経口摂取での実効線量係数である。 例えば飲食により毎日2,000 Bq の131I を1年間摂取し続けた場合,その後50年間に受ける総被曝線量は 2,000×2.2× 10–5×365 = 16 mSv となる。

体内に入った放射性物質は,全身に均等に分布する場合と,特定の1つまたは幾つかの組織・器官に選択的に吸収される場合がある。 131I は甲状腺に選択的に取り込まれ,甲状腺がんや甲状腺機能低下を引き起こす。 137Csは全身(主に筋肉)に分布し,白血病や不妊の原因となる。 1 mSv の被曝で身体のどこかにがんが発症する確率は 1.7×10–4 とされるので,前述の総被曝線量 16 mSv はがん発生率を,16×1.7×10–4=2.7×10–3=0.27 % 上昇させる。 日本人男性は現在2人に1人(53.6 %)が生涯でがんになるので,リスクは53.6 % から53.87 % となる。 ただし,放射線発がんには閾値があり,100 mSv まではがん発生が無いとの説もある。

チェルノブイリ事故では,牛乳が検査されず,131I で汚染された牛乳を飲んだ子供たちに甲状腺がんが発生した。 日本では今回,牛乳,野菜などの放射能測定により,出荷停止など措置が講じられた。