原子核分裂

下浦 享(原子核科学研究センター 教授)

質量数の大きな原子核に中性子を吸収させると,内部エネルギーが大きくなって分裂することがあり,原子核分裂とよばれる。 増加した内部エネルギーが,原子核に振動や変形を引き起こし,原子核をより球形に保とうとする核力を,クーロン反発力がしのぐことになり,核が2つ以上に分裂するわけである。 天然の原子核も自然に核分裂することがある(自発核分裂)が,その寿命はひじょうに長い。 1回の核分裂により解放されるエネルギーは,100メガ電子ボルト以上であり,1つの水素分子が燃えて水になる化学反応のエネルギー(約3電子ボルト)の3千万倍以上である。 原子力発電は,このひじょうに大きなエネルギーを利用した発電方法である。

天然に存在する核種で,中性子吸収により核分裂を起こすものは,235U,238U,232Thなどであり,このうち235Uのみが速度の遅い熱中性子によりひじょうに大きな確率で核分裂を引き起こす。 他の2つは高速中性子によってのみ核分裂をおこし,その確率は235Uに比べると1000分の1以下である。 中性子数が偶数の原子核が相対的に安定であるという核力の性質のため,中性子数が奇数の原子核に中性子を吸収させる方が,内部エネルギーを大きくでき,核分裂の確率が高くなる。

たとえば1個の235U原子核が核分裂すると,質量数がほぼ100と130程度の2つの原子核(核分裂生成物)と,複数の中性子(即発中性子)が放出されることが多い。 核分裂生成物は安定同位体に比べ,中性子数がかなり過剰なため,その後ほぼ数分以内にβ崩壊を起こし,たとえば131I,137Cs,90Srなど,より半減期の長い原子核になるが,このときにも中性子(遅発中性子)を放出することがある。

核分裂により生成される中性子のうち,平均して1個以上が次の原子核の核分裂を引き起こす場合には,分裂反応が連鎖反応として持続する。 反応が持続するか否かの境界条件を臨界とよぶ。 臨界を超えて連鎖反応をねずみ算式に引き起こすのが原子爆弾であり,臨界点でエネルギー生成を持続させるものが原子炉である。 臨界条件は燃料の濃縮度,質量や形状,中性子の速度などに依存する。 即発中性子も遅発中性子も高速なため,原子炉では水などの減速材により中性子を熱速度にまで減速し,連鎖反応を持続させている。 また,中性子を吸収しやすい物質を含む制御棒を用いて,臨界条件を制御している。