放射線と半減期

下浦 享(原子核科学研究センター 教授)

放射線とは,エネルギーの高い粒子(電子,陽子,光子など)の総称で,100ボルトのコンセントから流出する電子も,ひとたび数万ボルトの電場で加速されれば放射線となる。 放射線を発生源で分類すると,40K,137Cs,238Uなどの放射性同位元素(RI)の崩壊によるもの,宇宙から飛来する宇宙線,加速器で供給される高速のイオンなどがある。 RIには,天然に存在するものと原子炉などで人工的に作られるものがあり,原子力発電所からの放射能は後者に起因する。RIの崩壊で放出される放射線は,おもにα線(ヘリウム4の原子核),β線(電子,陽電子),およびγ線(光子)であり,それぞれ素粒子に働く力として,強い相互作用(α崩壊),弱い相互作用(β崩壊),電磁相互作用(γ崩壊)に対応する。

α崩壊はおもに重い原子核で起き,崩壊前の原子核(親核)から,原子番号が2,質量数が4だけ少ない核(娘核)が生成される。 自然界には,α崩壊する半減期の長いRIを親核とし,娘核が再びα崩壊やβ崩壊(およびγ崩壊)をくり返し,最終的に安定な鉛などの同位体に至る系列が4つある。 すなわち232Thを親核とし,質量数がA =4n(nは整数)で表わされるトリウム系列,238Uを親核とするウラン系列(A = 4n+2),235Uが親核のアクチニウム系列(A = 4n+3),237Npが親となるネプツニウム系列(A = 4n+1)である。 天然の重金属鉱物は,これらの核種を微量に含むことが多い。

β崩壊では,親核と同じ質量数で,原子番号が1だけ違う娘核が生成される。 β崩壊は,電子放出,陽電子放出,荷電粒子を放出しない電子捕獲の3種類に細分でき,いずれも反ニュートリノまたはニュートリノの放出を伴う。 β崩壊後の娘核は励起している場合が多く,その場合はγ崩壊を伴う。 たとえば137Csは,電子と反ニュートリノを放出して137Ba の安定な基底状態(8%)ないし励起状態(92%)に崩壊し,後者はγ崩壊によって137Ba の基底状態になる。

γ崩壊は,励起した原子核が基底状態に落ちるとき放出され,核種の変化はない。 特殊な場合として,γ線に行くはずのエネルギーを原子内の電子に与えて放出させる,内部転換電子放出がある。 上述の137Baの崩壊では,約8%の確率でこれが起こる。

原子核の崩壊率は,親核の核種とその状態ごとに決まっていて,半減期とよぶ時間T が経過すると,親核の個数も,その個数に比例する放射線の強さも,半分になる。 最初から2T の後には1/4,3T の後には1/8となり,10T を経過すると,1/210≒1/1000になる。 天然に存在するα崩壊核種である238Uは45億年,235Uは7億年と,ひじょうに長い半減期をもつが,人工RIには数日から数年のものが多く,生命科学の研究でよく利用される32Pでは14日,γ線照射源として使用される60Coでは5.3年である。 大気中で宇宙線により作られる14Cは5730年の半減期をもち,古い有機物などに含まれる14Cの量は,年代測定に用いられる。