原子核とその安定性

下浦 享(原子核科学研究センター 教授)

原子核は,陽子と中性子(核子と総称する)が結びついた微粒子で,自然界の物質質量の大部分を担うが,その大きさは原子の大きさの約1万分の1にすぎず,約1兆分の 1 cm である。 原子核を構成する陽子の個数は,中性原子に含まれる電子の個数に等しく,6個なら炭素(元素記号C),26個なら鉄(Fe), 82個なら鉛(Pb)というように,元素を決定する。 ところが同じ元素でも,炭素12(中性子6個,12Cとも書く)や炭素13(中性子7個,13C)のように,異なる個数の中性子をもつ原子核が存在することがあり,それらは同位元素(同位体)とよばれる。 たとえば二酸化炭素CO2の分子を構成する炭素の原子核は, 12Cの場合も13Cの場合もあり,わずかな質量の差を除くとそれらは区別できない。 元素名の後の数(元素記号の左肩の数字)は,陽子の個数Z と中性子の個数N を足したZ +N のことで,これを質量数とよび,A と書く。 このように原子核の種類(核種)は,Z N ,あるいはZ A の組み合わせで表わされる。

原子核がばらばらにならないのは,湯川秀樹博士が示したように,核力とよばれる引力が核子間に働き,互いを束縛するためである。 このため,1個の原子核の質量は,それを構成する陽子と中性子の質量の総和よりわずかに小さく,その差を束縛エネルギーとよび,その絶対値が大きいほど安定である。 束縛エネルギーはおもに,核子どうしを引きつける核力と,正電荷をもつ陽子に起因するクーロン反発力のせめぎ合いで決まる。 軽い核ではクーロン反発力が小さいので,酸素16(Z =8,N =8)や鉄56(Z =26,N =30)など,ほぼZ =N の核種が最も安定だが,重い原子核では陽子間のクーロン反発力が増すため,鉛208(Z =82,N =126)などのように,Z N の核が安定となる。

原子核は,陽子や中性子を吸収したり,他の原子核と融合したり,核子(群)をやりとりしたり,2個に分裂するなどの原子核反応により,核種やその状態を変化させることができる。 ここでやり取りされるエネルギーは,化学反応に関わるエネルギー(ほぼ1電子ボルト)の100万倍にのぼるため,メガ電子ボルトの単位で測られる。 自然界には,外からエネルギーを与えない限り変化を起こさない安定核種が270種類ほど存在する。 それ以外の核種(不安定核)は,内部エネルギーをα線,β線,γ線などの放射線として放出するので,放射性同位元素(RI)ともよばれる。

自然界の安定核はすべて,宇宙におけるさまざまな原子核反応や,それにより生成された不安定核の崩壊の結果,作られたものである。 また,太陽エネルギーをはじめ,星のエネルギーの大半は原子核反応によって生成されている。