オーガナイザー(形成体)

平良 眞規(生物科学専攻 准教授)

図1

オーガナイザーの移植実験。移植された原口背唇部(赤で示す)は主として脊索に分化するが,宿主胚に種々の組織を誘導することで,二次胚をつくり上げる。

脊椎動物の胚発生の初期において中心的な役割を担う領域がオーガナイザー(形成体)である。真骨魚類の盾(シールド),両生類の原口背唇部,鳥類のヘンゼン結節,哺乳類の結節(ノード)がそれに相当する。オーガナイザーは,たとえば隣接する外胚葉に対して神経組織を,中胚葉に対しては筋肉を「誘導」するなど,いわば胚発生における司令塔としての役割をもつ。誘導とは周りの組織に働きかけてその発生運命を決めることであり,それを行う因子を「誘導因子」という。

オーガナイザーは,ハンス・シュペーマン(Hans Spemann)とヒルデ・マンゴールド(Hilde Mangold)によって,イモリ胚を用いた原口背唇部の移植による二次胚誘導実験により見出された(図)。1924年に発表された彼らの論文は,胚発生のしくみを探る「実験発生学」の興隆をもたらし,その潮流は現在の発生学の発展にも大きく貢献した。正に発生学における金字塔である。しかしその論文が出版された年,若き女性研究者マンゴールドは不慮の事故死をとげてしまう。1935年,シュペーマンは「胚発生におけるオーガナイザー作用」でノーベル生理学・医学賞を受賞した。

オーガナイザーの発見は多くの発生学者を刺激し,その後さまざまな研究が行われたことで,発生学の基本的な概念は確立した。しかし誘導因子の実態は明らかになることはなく,オーガナイザー研究はしだいに下火となっていく。そして1990年代前半,アフリカツメガエル(Xenopus)を用いて,オーガナイザーが初めて分子レベル・遺伝子レベルで明らかになった。オーガナイザーに特異的に発現し二次胚を誘導する遺伝子として,「ホメオボックス遺伝子(転写因子)」のGoosecoidとLim1(Lhx1)が,誘導因子としてNogginとChordinがまず見いだされた。その後,オーガナイザーに特異的に発現する多数の転写因子や誘導因子が発見されることとなる。

さて,オーガナイザーにおける遺伝子制御ネットワークはどのようになっているか,また進化的にオーガナイザーの起源はどこまでさかのぼれるであろうか。これらの課題に生物科学専攻・分子生物学研究室ではLim1遺伝子を中心に取り組んでいる。

なお,オーガナイザーは発見者の名に因み,シュペーマン・オーガナイザー,あるいはシュペーマン/マンゴールド・オーガナイザーとよばれる。