暗黒エネルギー

横山 順一(ビッグバン宇宙国際研究センター 教授)

暗黒エネルギー(ダークエネルギーともよばれる)とは,宇宙の膨張を加速するもとになる未知のエネルギーのことである。これは,引力である重力によって宇宙が潰れずに静的状態を保つために,アインシュタインが導入した宇宙項とよく似た性質をもっている。

1929年にハッブルによって宇宙膨張則が発見され,宇宙は時間変化していることが明らかになると,宇宙項は無用の長物として顧みられなくなった。最初に大きな膨張速度を与えられれば(これがビッグバンである),宇宙は銀河や暗黒物質どうしの重力によって減速しながらも,潰れずに膨張を続けられるからである。

ところが1998年,アメリカの2つの観測グループがあいついで現在の宇宙が加速的な膨張をしていることを発見した。彼らはいずれも,絶対等級すなわち本来の明るさが推定可能なIa型超新星の見かけの明るさと赤方偏移の関係から,宇宙が加速膨張していることを結論した。見かけの明るさから超新星までの距離がわかり,赤方偏移から超新星爆発が起こった時の宇宙の大きさと現在の大きさの比がわかるため,そこから宇宙の大きさの時間変化が求められるのである。

この結果は,宇宙が膨張しても密度の減らない未知のエネルギーによって満たされていることを示唆する。この状態では宇宙が大きくなればなるほど宇宙の全エネルギーは大きくなるので,このエネルギーは負の圧力をもっていることになる。これが暗黒エネルギーである。

その正体は,宇宙項と同じく,単なる真空のエネルギーであるかもしれないし, 100億年の時間スケールでもほとんど変化しない何らかのスカラー場のポテンシャルエネルギーであるかもしれない。

別の可能性としては,宇宙膨張を規定する重力理論が一般相対性理論からずれていたり,膜模型などの高次元宇宙論の名残が実効的な暗黒エネルギーを生み出しているシナリオなどを考えることができる。

暗黒エネルギーは現在,宇宙のエネルギーの約72%を占めるが,その性質を規定するパラメタとしてもっとも重要なのは,圧力とエネルギー密度の比を無次元量で表した状態パラメタwである。超新星のほか宇宙背景放射や大規模構造を用いたこれまでの観測結果は,宇宙項や真空のエネルギーを意味するw=–1と無矛盾であるが,そこからのズレを探る研究も活発に行われている。