共形変換

平地 健吾(数理科学研究科 准教授)

共形変換とは空間の一点で交わる二つの曲線のなす角度を保つ変換のことである。たとえばメルカトル図法で描かれた地図は,地球の表面から平面への共形変換である。地球は丸いため,距離の縮尺を保って平面の地図を描くことはできない。しかし,角度だけなら正確に平面上に写すことができる。大航海時代の船乗りは縮尺の変化する地図を使って等角航路(地図上の直線)に沿って旅をしていた。

もし地球がもっと複雑な形をしていたとしたら角度を保つ地図を作ることは可能であろうか? この問を一般化すると,距離の概念をもった二つの空間の間に共形変換が存在するのか,という共形幾何学の問題になる。2次元空間の場合には,ガウス(C. F. Gauss)により,どんな曲面でも何枚かの等角な地図でカバーすることができることが示されている。曲面の共形変換は美しい構造をもち,数学のみならず理論物理における共形場理論(CFT)の基礎にもなっている。

いっぽう,次元が3以上のときには等角な地図が作れない「曲がった」空間が存在する。この曲がり方を記述するために,1984年にフェファーマン(C. Fefferman)とグラハム(C. R. Graham)はアンビエント空間の理論を開発した。これはn次元空間の角度の情報だけからn+2次元のアインシュタイン・ローレンツ計量もつアンビエント空間とよばれる多様体を構成し,共形変換を対応するアンビエント空間の間のローレンツ変換に翻訳するものである。ローレンツ変換の幾何はよく知られているため,この発見が共形幾何学のブレークスルーとなり,高階の共形不変微分作用素,Q-曲率などの新しい対象が発見され,現在盛んに研究されている。最近ではマルダセナ(J. Maldacena)によって提唱された超弦理論におけるAdS/CFT対応においてもアンビエント空間が応用されている。

実は偶数次元空間での共形変換とローレンツ変換の双対性には誤差があり,共形不変量の構成も不完全な部分がある。筆者はグラハム教授と共に偶数次元のアンビエント空間理論の精密化に取り組んでいる。