双対性

加藤 晃史(数理科学研究科 教授)

1つの対象に対し2つの等価な記述法が存在するとき,2つの記述法を取り替える操作を双対(そうつい)とよぶ。より一般に,2つの記述法(概念・理論・モデル・…)$A$,$B$が,どちらも同じ対象を表す(と信じられる)とき,$A$と$B$は互いに双対であるという。双対性は知りたい対象について特定の記述法を越えた深い構造を浮かび上がらせるため,数学や物理の最前線で活発に研究されている。

射影幾何学の双対原理は古くから知られている:「射影幾何学においてある命題が成立すれば,『平面』と『直線』,『含む』と『含まれる』を交換した命題(双対命題)もまた成立する」。記号論理学(Boole代数)における双対原理も,その特別な場合である。

フーリエ変換も双対性の典型的な例である。量子力学の用語を借りれば,位置を対角化する基底から,運動量を対角化する基底に移るという,基底の取り替えがフーリエ変換である。この場合,双対性は「粒子と波動の相補性」を意味する。状態ベクトルという基底によらない概念の導入により,波動力学と行列力学がどちらが正しいかという不毛な議論は過去のものとなった。

数学では図形$X$を調べるさい,$X$のホモロジーとコホモロジーという2つの代数的対象を考える。前者は部品(単純な図形)から$X$へ向かう写像を用いて,後者は逆に$X$から部品へ向かう写像を用いて定義される。この両者も双対的な概念であり,情報量としては同等であることが期待される。実際,$X$がコンパクトかつ向き付け可能な 多様体の場合,両者が互いに双対であるというのがポアンカレ(Poincaré)双対性定理の主張である。より一般の特異点をもつような図形の場合に双対性を拡張するのは重要なテーマである。

群論において,その共役類を考えることと既約表現を考えることは双対性の一種であり,フーリエ変換の非可換版と見なすことができる。有限群の場合,両者は個数が一致し,指標表という基底の取り替え行列で結びついている。ポントリャーギン(Pontryagin)やラングランズ(Langlands)双対性はその発展形で,場の理論の双対性とも深い関係があり,大きな注目を集めている。