恒星風・太陽風

田中 培生(天文学教育研究センター 准教授)

恒星風とは,星から吹く風,つまりガスの流れであり,星の質量を減少させ,その一生に大きく影響するとともに,周囲の宇宙空間にも大きな影響を及ぼす,とても興味深い現象である。この現象は,われわれにもっとも身近な恒星である太陽で最初に観測された。100万度の高温太陽コロナからのプラズマ流は,地球の極地域で見られるオーロラ,地磁気嵐などの現象や,彗星の尾の形成などに大きな影響を及ぼす。1950年代,E. パーカー(Eugene N. Parker; 2003年京都賞受賞)が超音速プラズマ流加速のモデルを提唱し,“太陽風”を理論的に予知した。 最近では,“宇宙天気予報”など,太陽風の影響による地球環境の研究も盛んで,日本の太陽観測衛星“ひのとり”,“ようこう”,“ひので”の活躍が記憶に新しい。 この太陽風によるガスの流出が,現在の質量放出率(10-14×太陽質量/年)で,太陽の寿命,100億年にわたって続いたとしても,太陽の質量は0.01%しか減少しない。いっぽう,太陽の10~100倍の質量をもつ大質量星は,恒星風によってその質量の大半を放出し,最後に超新星爆発で一生を終える。この大きな質量放出率は太陽風のモデルでは説明できない。1970年代,星からの強い紫外線の,C,N,Oや鉄族原子での吸収による輻射圧でガスを加速する恒星風モデルが提唱された。ただし,紫外線を吸収する何万本もの線スペクトルを正確に計算することは容易ではない。

とくに,大質量星終末期の星で,恒星風によって水素の外層を吹き飛ばされ,高温の内部が露出した状態のウォルフ・ライエ星では,2~3千km/sの高速(なんと,光速の1%!に近い)で,10-5×太陽質量/年以上もの大きな質量放出率が観測されているが,質量放出率の観測値にはまだ不確定さを残しているのが現状である。

超新星の母天体であるウォルフ・ライエ星の進化は,野本憲一教授(数物連携宇宙研究機構,天文学専攻)のグループが世界の研究をリードしている,超新星やガンマ線バーストの物理とも密接に関連している。筆者らは,われわれの銀河系(天の川)に大半がいまだ発見されずに埋もれていると予想されているウォルフ・ライエ星の発見を目指して,本研究科附属天文学教育研究センターが南米チリ・アタカマ高地(標高5600 m)に建設したminiTAO望遠鏡での赤外線観測を計画している。