ボース・アインシュタイン凝縮

上田 正仁(物理学専攻 教授)

ボース・アインシュタイン凝縮(Bose-Einstein condensation,以下BECと略す)は系を構成する多数の粒子が完全に同期して運動する結果,ミクロな量子力学的性質がマクロに増幅される効果である。今日では,BECは超伝導,超流動,レーザーなどを引き起こすもっとも基本的なメカニズムであると認識されている。BECは,(質量のない)光子の統計性がボース統計に従うことを明らかにしたボースのアイデアを,質量をもつ粒子に適用したアインシュタインにより1924年に予言された。しかし,あまりに特異な効果であったために,その実現可能性についてはアインシュタイン自身ですら懐疑的であったといわれている。

その後,BECはヘリウム(4He)の 超流動現象の本質であることが次第に認識されるようになった。超流動とは液体が粘性を持たずに流れ続ける現象であり,電気抵抗が消滅する超伝導も本質的には超流動と同じ現象である。1995年には原子の気体がBECを起こすことが実験で示され,液体だけではなく気体もまた超流動になることが明らかになり,これが契機となり,BEC研究は世界中で爆発的な勢いで広がりつつある。実際,1997年,2001年,2005年のノーベル物理学賞がBECに関連する分野の研究者に与えられたという事実からも,この研究分野に対する世界の研究者の関心の高さが想像できる。

冷却原子気体のBECは,1ナノケルビン(10-9K)という宇宙でもっとも低い温度まで原子を冷却することができ,かつ,原子間の相互作用を自在に制御できるなど,物質を特徴づけるほとんどすべてのパラメーターを自在にあやつれる人工量子物質である。これを使うことにより,BECを使った超新星爆発に類似の現象の実現など,これまでは純粋な思考実験でしかなかったさまざまなアイデアを実験で検証することができるようになった。また,光の定在波で作られる光格子とよばれる人工的な完全結晶に冷却原子を閉じ込めることにより,固体中の電子の性質を冷却原子を用いて研究されている。それを用いて高温超伝導のメカニズムを解明しようという研究が世界中で進められている。