南極氷床コア

横山 祐典(海洋研究所 准教授,地球惑星科学専攻 准教授 兼任)

ペンギンが表面を滑りながら移動している白い大地。南極大陸に存在する氷床は,地球表層における世界最大の淡水の貯留庫だ。南極氷床は中央部に存在する南極横断山地をはさみ,東南極と西南極氷床が存在する。およそ1200万平方キロメートルの面積をもち,大きなところでは厚さが4 kmにもおよび,すべてが融解すると,海水準を世界的に70 mも上昇させうる。米ソ冷戦時代にグリーンランド北西部に作られた米軍の“氷床内基地”であるキャンプセンチュリーのアイスコアは,はじめて基盤まで到達したコアであり,デンマークとアメリカのグループにより水の同位体分析が行われた。それには気温変化の記録が詳細に刻まれており,その後採取されたアイスコアの記録にも同じような変化が確認された。グリーンランドで成功したアイスコアの研究は,分析技術や掘削技術の発展も手伝って,一躍,気候変動研究の主役に躍り出た。

南極の氷はグリーンランドのそれと共に,過去の地球表層環境変遷をたどる上できわめて優れたアーカイブだ。表面に降り積もった雪は自らの重みで氷となり,その時点での大気情報を取り込む。いわゆる“空気の化石”ともいうべきこれらの情報は,氷やガスの同位体比の分析に基づく気温の情報のほかに二酸化炭素やメタン濃度,大気中のエアロゾルや火山噴火の記録,太陽活動や地球磁場強度変動,ひいては中-低緯度の気候状態も保存している。南極では,日本のドームふじアイスコアを含む複数の氷床コアが掘削されている。最長記録はロシアのボストーク氷床コアの3600 mあまり。また過去90万年間というもっとも古い氷の記録が採取されたのは,欧州チームのドームCコアである。1998年に掘削されたボストークアイスコアの分析からもたらされた,重要な発見のひとつは,過去の気温変動とほぼ同調して大気中の温室効果ガス濃度が判で押したように上昇と下降を一定の幅の変動を繰り返してきたことである。温暖化と温室効果ガスのモデル研究への重要な境界条件を与えている。宇宙線と地球大気との相互作用によって生成された核種を用いた分析は,加速器質量分析の発展とともに,近年活発に研究されている分野である。氷の層であるため,年代決定が難しいアイスコアの高精度年代測定や氷床融解史,また宇宙線フラックスの変動の復元から,太陽活動や地球磁場変動についての研究も行われ始めた。地球環境変動の進展のためにキーとなる南極氷床についての研究であるが,東京大学ではおもに大気物理学的視点から地球惑星科学専攻の佐藤薫教授らのグループが,また氷床変動や気候変動そして太陽活動についての研究を,われわれの研究室と宇宙線研究所の宮原ひろ子特任助教,そして工学系研究科原子力国際専攻の松崎浩之准教授らが協力しながら研究を行っている。