ソリトン

時弘 哲治(数理科学研究科 教授)

ソリトンは粒子性をもつ波である。通常見られる波は伝播してゆくに連れて形が変化し最後には崩れるものだが,ソリトンは同じ形を保ったまま伝播し,さらにソリトンどうしが衝突してもそれぞれの形は変化しない。

ソリトンの研究は,1834年のスコット・ラッセル(John Scott-Russell)の安定な孤立波の観測に始まると言われている。彼は実験的にこの孤立波の存在と特性を研究し,1895年,コルテヴェーグ(Diederik Korteweg)とドゥフリース(Gustav de Vries)が流体力学の基礎方程式から浅い水を進行する波の方程式(KdV方程式)を導きその結論を理論的に説明した。その後,1965年にザブスキー(Norman Zabusky)とクラスカル(Martin Kuruskal)は熱拡散の問題を解析する過程でKdV方程式を再発見し,数値的に解いたところ孤立した波どうしが粒子のように散乱するのを見出し,“solitary wave”(孤立波)に粒子性を示す接尾語“on”をつけこの波を“soliton”と名づけた。

ソリトンを解にもつ微分方程式は,非線形シュレディンガー方程式,KP(Kadomtsev-Pitviashvili)方程式,戸田格子方程式などひじょうにたくさんある。これらはすべて,無限個の独立な保存量をもつ,線形方程式の両立条件として表示できる,広田の双線形方程式で記述できる,初期値問題が逆散乱法により解ける,などの良い性質をもち,無限次元非線形可積分方程式とよばれる。1980年前後に,佐藤幹夫は無限次元非線形可積分方程式に関する統一理論を構築し,数学・物理学のさまざまな分野に大きな影響を与えた。戸田,広田,佐藤と言う名前が出てきたように,ソリトンの研究では日本人の研究者が常に世界の第一線で活躍してきた。

工学的には,1990年頃より光ファイバー中のソリトンを利用した光ソリトン通信の研究が盛んに行われてきたが,現在では大容量のブロードバンド通信の研究が主流のようである。理論面では,現在は,離散系のソリトン研究が主として行われており,数理科学研究科ではウィロックス(Ralph Willox)准教授や筆者の研究室で離散ソリトン方程式や超離散可積分系とよばれる完全に離散的な系を理論的に研究している。