低分子ペプチド

澤 進一郎(生物科学専攻 准教授)

近年の健康ブームにのって,大豆ペプチドなどの健康食品だけでなく,コラーゲンペプチドなど美肌に効果的とうたわれる美容食品までもが登場し,“ペプチド”は,広く知られるようになってきた。ペプチドとは,アミノ酸同士が脱水縮合して結合(ペプチド結合)したアミノ酸鎖の総称である。習慣的に,10アミノ酸程度までを低分子ペプチド,100アミノ酸程度までを(ポリ)ペプチドといい,それ以上はタンパク質とよぶ。甘味料のアスパルテームは2アミノ酸からなる低分子ペプチドだ。

生体内で機能するペプチド性因子としては,約50アミノ酸からなるインシュリンが1921年に報告され,現在はヒトの糖尿病治療において,なくてはならない存在になっているのはご存知の通りである。これまでに,植物から同定されたペプチドはまだ数個程度であるが,近年,たった4アミノ酸で機能するPSK(phytosulfokine,細胞分裂の促進に関与する)や12アミノ酸からなるCLE(CLAVATA3/EMBRYO-SURROUNDING REGION-RELATED,多細胞植物の形態形成等に関与する)など,さまざまな低分子ペプチドが相次いで発見され,その機能に注目が集まっている。

さて,その植物は,動物とは異なり移動できない為,さまざまな環境刺激に応じて,さまざまな対応を余儀なくされている。そこで,植物は各器官(細胞)間で,動物よりもさまざまな情報のやりとりを活発に行っているとも言われており,細胞間情報伝達機構のよい研究材料となっている。たとえば,シロイヌナズナの場合,受容体型キナーゼが,登録されているEST(expressed sequence tag,生体内で機能すると考えられる遺伝子の転写産物を利用した指標)の0.6%を占める。ちなみに,ショウジョウバエの場合はたった0.003%であり,実に植物の200分の1しかない。このように多様な受容体に直接結合するシグナル因子として,CLEなどのたくさんの低分子ペプチドが同定されてきており,低分子ペプチドが位置情報の付与など,さまざまな細胞間情報伝達に寄与することが明らかになってきた。現在も低分子ペプチドがどのようにつくられ,近隣の細胞に対してどのように働くのか,という研究が進んでいる。

世界的にみてもたいへん競争の激しい分野となってきているが,当研究科においては,生物科学専攻の植物科学大講座(福田教授,川口准教授,筆者)や,進化多様性大講座(平野教授)において,このような低分子ペプチド研究への取り組みがなされている。