粉体

佐野 雅己(物理学専攻 教授)

砂粒から宇宙空間を漂う塵まで,離散的な粒子の集団を粉体とよぶ。砂粒をすくい上げるとさらさらと流れ落ちる。このように粒子間の付着力がほとんどなく,熱による運動が無視できる程度に大きい粒子が粉体の定義である。食品,製薬,土木,鉱業,冶金,材料科学など多くの分野で粉体の挙動と操作方法を理解することは重要である。

粉体は,押し固めれば固体のように形を保つことができるが,地震による液状化のように流れたり,なだれを起こすなど,流体のように振舞うこともある。粉体は,粒子の空間密度や外部からのエネルギーの注入条件によって,固体や液体,気体のように振舞う性質をもっている。いっぽう,通常の固体や液体とは異なった振る舞いをするのも粉体の特徴である。大きさが異なる2種類の粒子を混ぜて容器に入れ,振ったり回転させたり,混ぜようとすればするほど2種類の粒子が分離してくる現象がある。たとえば,グラニュー糖と砂粒をまぜて斜面を流すと2種類の粒子は筋状に分かれて縞模様を形成する。このように粒子の大きさや密度,摩擦係数の違いなど様々の原因で,混ぜようとしてもひとりでに分かれることが知られている。とくに,大きさの異なる2種の粒子を混ぜて振ると,大きな粒子が上に集まる現象はブラジルナッツ効果とよばれている。これらの自発的な分離現象は,粒子を大きさや密度で分離するのに利用されることもある。

粉体のパターン形成も顕著な現象であり,山地の形成や浸食,砂丘や風紋の形成,惑星や月表面でのクレータ形成などの例をあげるまでもなく,地形を理解する上でも重要な課題となっている。たとえば,粉体を容器に入れて上下に振動させると粉体の表面では液体を振動させた場合のようにさざなみが立ち,正方格子や六角格子のような表面波が生じる。また,粒子の層が厚くなると振動により,対流のような循環運動が生じ,斜面がひとりでに形成される。この現象は,マイケル・ファラデイによって発見された。

このような粉体の不思議な振る舞いは,粒子間の非弾性衝突や摩擦のため,エネルギーが保存しないという性質に起因している。これらの効果を考慮した離散粒子系の数値計算は,実験結果をよく再現するが,実験の予測に耐える粉体の物理理論はいまだ完成していない。ここ約20年の間,粉体は統計力学のホットなトピックとなっている。