固相合成法

田代 省平(化学専攻 助教)

DNAやタンパク質(ペプチド)といった生命の根幹に関わる生体高分子の化学合成を可能にした技術が“固相合成法”である。

化学反応,とりわけ有機合成反応では,溶媒に試薬を溶かして反応させるという“液相合成”がもっとも標準的である。いっぽう“固相合成”は,反応させたい分子を固体樹脂上に結合させ,その樹脂上で試薬と化学反応させる合成手法である。先に述べた液相合成では,反応溶液から目的分子だけを分離する必要があり,時として多大な労力を要する。いっぽう,固相合成は,樹脂に結合した目的分子以外の不要物,たとえば残存試薬などを洗浄操作のみで簡便に除けるという大きなメリットがある。そのため固相合成では,煩雑な分離操作なしに連続的に化学反応を行うことが可能となり,手間と時間が大幅に省略される。

固相合成の有用性は,まずペプチドの化学合成で威力を発揮した。たとえば,液相法によってR(アルギニン)−I(イソロイシン)−G(グリシン)−A(アラニン)−K(リシン)…のようなペプチドを合成する場合,アミノ酸の縮合と脱保護を繰り返し行うためひじょうに手間がかかる。ところが1963年,メリーフィールド(R. B. Merrifield)によって4残基ペプチドの固相合成が報告されて以来,現在では自動ペプチド固相合成装置を活用することで,数十残基のペプチドが数日もしくは一日でほぼ自動合成されるまでに至った。またDNAも,現在では固相合成およびその自動化が一般的になっている。

固相合成法の魅力は,生体分子をそのまま化学合成できることだけではない。固相合成によって,人工分子をDNAやペプチドに組み込むことにより,生体分子を超えた新しい機能性分子を創製することができる。たとえば化学専攻の塩谷光彦教授(生物無機化学研究室)のグループでは,金属イオンを捕捉する機能性部位が織り込まれた人工DNA鎖を,固相法によって自動合成することに成功している。得られた人工DNAと金属イオンを水中で混ぜ合わせると,金属イオンがDNA内部に一次元状に配列し,原子1個分の太さの世界最細の金属ナノワイヤーをつくることができる。