相転移

宮下 精二(物理学専攻 教授)

物理学の研究は自然現象の根本要素がどうなっているかを解明することであり,原子,原子核,素粒子の仕組みと研究が進んでいる。しかし,自然現象を理解するためにはもうひとつ重要な側面がある。それは,協力現象とよばれ,簡単な要素でも,それぞれ同士が相互作用することによって巨視的に特徴ある状態を生み出す現象である。この現象は,単に複雑というだけではすまされない。たとえば,水の分子の分子自身は変化しないが,温度によって氷,水,水蒸気とマクロな形態を温度とともに不連続に変化する。このように,ミクロにみるとシステム自身には何ら特異性はないのに,マクロに特異性が現れる現象を「相転移」という。水の変化だけでなく,鉄が磁石になる現象や,電気抵抗が無くなる超伝導相転移,ヘリウムが低温で見せる超流動相への変化も相転移である。そのほか,液晶やゾルゲル転移など相転移の枚挙にいとまがない。逆にいえば,森羅万象は,相転移の集まりからできていると言ってよいかもしれない。実際,宇宙の始まりのモデルであるビッグバンやそれに伴うインフレーションなども相転移のアナロジーで論じられる。

相転移に関して重要な概念として,「対称性の破れ」というものがある。例として,+1(白)か−1(黒)をとる要素からなる格子を考え,隣り合った2つがそろった方がエネルギー的に得とする。この系は±に関してエネルギー的に対称であり,大きな熱的擾乱を受けている場合(高温)には,対称性が破れず系は灰色(ミクロに2つの状態が混ざった状態)になる。しかし,ある温度以下では,すべての要素が全体的にそろった状態になる。つまり,白か黒のどちらかになる。これが相転移である。ここで,白黒どちらでもよいが,どちらかを選ばなくてはならないのである。そして,選んだ後は対称性が破れている。物質の創成も高温の対称性の高い状態からの対称性の破れで説明されている。このように,マクロな現象であった相転移は,ミクロな現象の理解にも大きな役割を果たしている。

相転移の機構は統計力学の中心課題のひとつであり,種々の新しいタイプの相転移やその動的過程,さらには動的過程が示す非平衡相転移などの研究が詳しく進められている。たとえば,スピンクロスオーバーとよばれる磁性・非磁性間の相転移や光照射の効果が,物理(宮下研究室)と化学(大越研究室)の共同で進められている。