RNA干渉

程 久美子(生物化学専攻 助教授)

RNAといえば,セントラルドグマ(DNA→RNA→タンパク質)という分子生物学の中心原理ともいえる概念の中で, DNAからタンパク質を合成するための遺伝情報の仲介役にすぎないと考えられていた。また,DNAは二重らせんを作るが, RNAといえば1本鎖であるというのが10年程前までの常識であった。しかし,1998年に,RNA干渉〔RNA interferenceの和訳でRNAi(アールエヌエーアイ)と略される〕という現象が見いだされ,2本鎖のRNAが遺伝子発現を制御していることがわかってきた。発見から8年しか経っていないにもかかわらず,本年のノーベル医学生理学賞は「RNA干渉−2本鎖RNAによる遺伝子の抑制」の業績により,A.ファイアー(Andrew Fire)博士とC.メロー(Craig Mello)博士に授与された。

RNA干渉とは,2本鎖RNAが,いくつかのタンパク質と複合体を作り,相同な塩基配列をもつメッセンジャーRNAと特異的に対合し,切断することによって,遺伝子の発現を抑えてしまう現象である。RNA干渉のマシナリーは,生体内のさまざまな局面で重要な役割を担っている。ウイルス感染に対する防御機構や,ゲノム上を転移する動く遺伝子を抑制し,ゲノムの安定性を保つことにも関わっているようである。また,これまで見逃されてきた,マイクロRNAという短い2本鎖RNAが生体内でも多数発現しており,多くの遺伝子の発現調節をしていることも明らかになってきている。さらにRNA干渉は,遺伝子の機能を人為的に抑制することにも応用できるので,遺伝子機能解析の汎用性の高いツールとしても注目されている。ゲノムプロジェクトによってヒトをはじめとする多くの生物種の全遺伝子配列が決定されたが,その情報を利用し,個々の遺伝子にユニークな塩基配列を選択することにより,遺伝子機能を網羅的に解析することが可能になったといえる。すでに臨床的な治療へ応用することも検討されている。

理学系研究科においても, RNA干渉を利用した遺伝子機能の解析は幅広く行われている。メカニズムの解析に関わる研究も生物化学専攻(西郷研究室,程研究室)で行われており,哺乳類でのRNA干渉は,配列によって効果が大きく異なることが示され,効率よくRNA干渉を引き起こすことが可能で,遺伝子特異的な配列を選択する方法が確立されている。