理学部紹介冊子
ゲノム
ゲノムはドイツ語Genomの日本語読み。英語ではgenome。ジーノウム[di:noum]と発音する。語源は,遺伝子「gene」と全てを意味する「-ome」を合わせた造語。この言葉は,1920年にウィンクラー博士(H.Winkler)によって「配偶子が持つ染色体の一組」として定義され,後に木原均博士(1930年)が,「ある生物をその生物たらしめるのに必須な遺伝情報」として概念的に定義し直した。現在では,ゲノムは「染色体上の遺伝子が持つ全遺伝情報」を意味するというのが一般的である。また,木村博士は「地球の歴史は地層に,生命の歴史はゲノムに刻まれる」という名言を残されている。
ゲノムの持つ遺伝情報は,デオキシリボ核酸(DNA)の4種類の塩基(A, T, G, C)の組み合わせからなる。例えば,ヒトゲノムは約30億塩基対である。真核生物に限れば,ゲノム解読(全塩基配列の決定)の流れは1997年のパン酵母に始まり, 2000年のヒトゲノム概要配列決定で一つのピークに達した。これらにより生命の設計図が莫大なデジタル情報としてもたらされ,生命科学の研究にインパクトを与えている。
ゲノム情報を前に科学者が最初に持った印象は,「生物,特に高等な生物のゲノムの大半は,いわゆるジャンク(がらくた)配列で占められている」というものであった。しかし,最近この考え方が急速に変わり始めている。例えば,マウスゲノム(26億塩基対)の95%はタンパク質をコードしていないが,その70%以上の領域がRNAとして転写されていた。一般にRNAはタンパク質の設計図として遺伝子領域から転写される。しかし,タンパク質をコードしないRNAが多数存在し,それらが他の遺伝子の発現制御に深くかかわっていたのである。
このような流れの中で理学系研究科生物科学専攻においても,ゲノム情報から生物進化を探る研究(進化多様性生物学大講座−平野研究室,野中研究室,人類科学大講座−植田研究室など)が進められている。また最近,動物科学大講座・武田研究室が国立遺伝学研究所・小原研究室,新領域創成科学研究科・森下研究室と共同でメダカゲノム(7-8億塩基対)の概要配列を完成させている。