理学部紹介冊子
プレートテクトニクス
プレートテクトニクスは過去約40年間,固体地球科学を支えてきた理論である。テクトニクスとは耳慣れない言葉であるが,地形などの構造がどのように形成されるか説明する理論のことである。地球の表面には約100 kmの深さまで弾性体的にふるまう層(リソスフェア)が存在し,その下には長いタイムスケールで粘性的にふるまう層(アセノスフェア)が存在する。リソスフェアは10数枚に分割され,それぞれをプレートと呼ぶ。プレート同士は相対運動していて,その境界では地震や火山噴火のような地殻活動が起きたり日本列島のような島弧が作られたりする。
日本の周りは世界的にもプレート運動による地殻活動が激しいところであり,高度に整備された観測体制がプレートテクトニクス理論の限界を試すところでもある。東日本は北米プレート(東京が北米に属するというのはある意味自然?)に,西日本はユーラシアプレートに乗っていて,南東から伊豆などを乗せたフィリピン海プレート,東から南鳥島を乗せた太平洋プレートが沈み込んでいる。国土地理院の地殻変動情報サイトではこれらのプレートの相対運動とその結果日本列島が変形する様子が手にとるように見える。日本列島の乗るプレートは剛体ではなく伸びたり縮んだりしているし,ところによってはプレート境界でないところの変形がめだつ。これらの観測事実はわれわれに考え方の修正を迫る。昔は世界的にも10数枚しかなかったプレートがさらに多数に分割されるようになっている。日本列島の所在地も北米プレート,ユーラシアプレートから独立したオホーツクプレートとアムールプレートと考えることが多いし,さらに南九州や沖縄を別のプレートにわけることもある。
とはいえプレートテクトニクス自体は十分成熟した理論であり,最先端の大規模プロジェクトもそれを当たり前のものとして進められている。地球惑星科学専攻でも木村教授はプレート境界の物質構造を調べるための国際海洋掘削計画をリードし, 2007年からはいよいよ海面下10 kmの大掘削をめざす。また松浦教授はプレート運動が地震を引き起こす仕組みのモデル化を進め,高速計算機「地球シミュレーター」を用いて地震活動予測問題に取り組んでいる。