国立大学法人32大学理学部長会議 緊急声明
平成22年6月22日に閣議決定された「財政再建」に向けた我が国の「中期財政フレーム」では、平成23年度から25年度の3年間を対象とし、「政策的経費」を毎年8%ずつ削減すると謳われております。人財養成と学術研究の中心となる大学に対する運営費交付金は、まさにこの政策的経費に当たります。この削減案を機械的に当てはめますと、平成23年度は、今年度に比べ国立大学法人全体で927億円の減額となります。この額は、大規模大学の2大学分、または、小規模大学の27大学分の運営費交付金に相当しています。
平成16年度から平成21年度までの第一期中期目標・中期計画期間で、国立大学の運営費交付金は、既に830億円が減額されました。この間、各大学はさまざまな無駄を排除し、効率的な運営に向けた工夫を行い、教育と研究に大きな影響が出ないよう減額分の吸収を行ってきました。しかしながら、さまざまなところに弊害が顕在化し、大学は疲弊したと言っても過言ではありません。この上、毎年8%の減額を3年間行うとすれば、国立大学法人の崩壊につながることは目に見えております。特に理学の分野では、幅広い研究分野の中から、将来花開く分野が育まれて来ており、運営費交付金の大幅削減は、直接、そのすべての芽を枯らしてしまうことになります。
この6月18日に閣議決定された「新成長戦略」では、「強い経済」と「強い財政」の両立を図るためには、「強い人財」の育成が不可欠と謳っています。なぜならば、若き人財こそが、「将来にわたって付加価値を創造し、持続可能な成長を担う」からです。また、「新成長戦略」では、7つの重要成長分野を育成することで、新たな需要を生み出し、市場や雇用を創出することを通じて我が国経済の本格的回復軌道に乗せることを謳っております。この中には、「環境・エネルギー分野」、「医療・介護・健康分野」、「科学・技術・情報通信分野」など、大学がまさにその中核を担う、あるいは担うべき分野が想定されております。これを大学が着実に実現するためにも、運営費交付金のこれ以上の削減は政策実現の妨げとなるものです。「中期財政フレーム」が「新成長戦略」を損うものになってはならないと考えます。
今年度から来年度にかけての927億円の削減は、想像を絶するものがありますが、仮に削減分を学部学生の授業料で補填すると仮定しますと、学生一人当たり年間23万円の値上げとなり、現行授業料の43%増に当たります。これは教育負担軽減の流れにまさに逆行するもので、これまでの政府の方針にも反し、国民の支持も得られるとは思われません。
我が国は「科学技術創造立国」を標榜しております。多くの事例を出すまでもなく、理学部が主に担っている基礎科学は、数十年後、数百年後の我が国の繁栄を、いや地球規模の課題に直面する人類の繁栄を支える基盤なのです。大学運営費交付金のこれ以上削減をすることは、正しい判断とは考えられません。国立大学法人32大学理学部長会議は、政策決定者の冷静で賢明なる判断をここに求めます。
国立大学法人32大学理学部長会議 構成メンバー
- 北海道大学理学部長 山口 佳三
- 弘前大学理学部長 稲村 隆夫
- 東北大学理学部長 花輪 公雄
- 山形大学理学部長 櫻井 敬久
- 茨城大学理学部長 堀 良通
- 筑波大学理学系組織連絡会議議長 木越 英夫
- 千葉大学理学部長 大橋 一世
- 埼玉大学理学部長 中林 誠一郎
- 東京大学理学部長 山形 俊男
- 東京工業大学理学部長 岡 眞
- お茶の水女子大学理学部長 塚田 和美
- 新潟大学理学部長 谷本 盛光
- 富山大学理学部長 山田 恭司
- 金沢大学理学部長 中尾 愼太郎
- 信州大学理学部長 武田 三男
- 静岡大学理学部長 村井 久雄
- 名古屋大学理学部長 國枝 秀世
- 京都大学理学部長 吉川 研一
- 大阪大学理学部長 東島 清
- 神戸大学理学部長 坂本 博
- 奈良女子大学理学部長 塚原 敬一
- 島根大学総合理工学部 竹内 潤
- 岡山大学理学部長 高橋 純夫
- 広島大学理学部長 出口 博則
- 山口大学理学部長 田中 和広
- 愛媛大学理学部長 佐藤 成一
- 高知大学理学部長 逸見 豊
- 九州大学理学部長 宮原 三郎
- 佐賀大学理工学部長 林田 行雄
- 熊本大学理学部長 古島 幹雄
- 鹿児島大学理学部長 清原 貞夫
- 琉球大学理学部長 山里 眞