真鍋淑郎 - 代表的な卒業生

真鍋淑郎

真鍋淑郎

真鍋淑郎先生は、1931年(昭和6年)に愛媛県宇摩郡新立村(現四国中央市)でお生まれになりました。旧制三島中学校(現愛媛県立三島高等学校)を経て、1953年に東京大学理学部物理学科地球物理学専攻を卒業されています。その後大学院に進学され、1958年に理学博士(地球物理学)を東京大学から授与されました。また、同じ1958年に渡米されています。渡米直後は、米国気象局に気象研究員として従事し、その後、1963年に米国海洋大気庁地球流体力学研究所で上級研究員として働き始めます。1968年にはプリンストン大学大気海洋研究プログラムの教授待遇講師にもなられ、活発に研究を進めることになります。1997年には宇宙開発事業団(NASDA)と海洋科学技術センター(JAMSTEC)による共同事業である地球フロンティア研究システムの地球温暖化予測研究領域長に着任されています。その後、2002年に米国プリンストン大学大気海洋研究プログラムに戻られ、現在は上級気象研究者となられています。

真鍋先生は1960年代に鉛直1次元放射対流平衡モデルと呼ばれる物理モデルを考案し、気温の鉛直構造における水蒸気・二酸化炭素・オゾン等の放射活性気体や雲の役割の定量化に世界で初めて成功しました。この物理モデルを用いて、他の条件を固定して二酸化炭素濃度を倍増した場合に地上気温が約2℃上昇するとの推定まで得ています。これは、大気中の二酸化炭素濃度が増大すると、大気が地上とやり取りする赤外放射も増えて、地上気温がより高い状態になると理解することができます(温室効果)。これらの基礎研究は、現在盛んに行われている人為的な温室効果気体の増大と地球温暖化との関係を明らかにする研究の先駆けとなるものです。2021年のノーベル物理学賞の受賞理由でも、これらの研究成果の重要性が高く評価されています。

その後、この効果を考慮した上で3次元の循環も再現することができる大気大循環モデルを開発し、改めて大気中の二酸化炭素濃度の増大が平均地上気温を上昇させるという結果を得ました。1969年にはカーク・ブライアン博士と共に大気大循環モデルと海洋大循環モデルを結合させることで、地球気候の基本構造を捉えることに成功しています。さらに、この世界初の大気・海洋・陸面過程結合モデルを用いて、温暖化気体である二酸化炭素を人為的に増大させたときに、地球気候がどのように変化するかを詳細に明らかにする研究を初めて行なっています。その後も一貫して、複雑な物理機構を含む大気海洋陸面結合モデルの高度化を進めるとともに、それを用いて気候の成り立ち、変動や変化を解明するという新しい研究分野を開拓し続けています。その中で、温暖化が北半球で先行することや、海洋が温暖化を緩和する効果を持つことなど、先駆的で重要な知見を数多く得ています。このような一連の研究は気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の議論などで現在広く用いられている地球温暖化シミュレーションの基盤を構成するもので、真鍋先生の研究なくしては成立し得なかったと言えるでしょう。

真鍋先生の初期の研究成果に対して、日本気象学会から藤原賞、米国気象学会からClarence Leroy Meisinger賞が授与されています。また、その後の一連の貢献により、アメリカ気象学会ロスビー賞(1992年)、ブループラネット賞(1992年)、朝日賞(1995年)、ボルボ環境賞(1997年)、ミランコビッチ・メダル(1998年)、クラフォード賞(2018年)、ノーベル物理学賞(2021年)などを始めとする多くの権威ある賞を受賞されています。1990年には米国アカデミー会員、1994年にヨーロッパ・アカデミー会員、1995年にはカナダ王立協会外国人会員、さらに2009年に日本学士院外国人会員に選任されています。

真鍋先生は、気候システムを構成する物理過程を見抜く鋭い目とそれをモデル化する緻密さとともに、溢れるような情熱を持って研究を進め、コンピュータによる気候のシミュレーション・モデルを開発し、それを用いて気候を解明するという研究分野の基礎を築いてこられました。米国気象学会には地球の気候システムの理解に顕著な貢献をした研究者に与えられる賞として、真鍋先生のお名前を冠したThe Syukuro Manabe Climate Research Awardが設けられており、この研究分野への真鍋先生の寄与の大きさを示しています。

(文責:大学院理学系研究科・教授 升本 順夫、大学院理学系研究科・教授 佐藤 薫)

真鍋淑郎(まなべ しゅくろう)プロフィール

米国プリンストン大学上級気象研究者

生年月日:1931年(昭和 6年)9月21日生 愛媛県四国中央市

  • 昭和28年(1953) 3月 東京大学理学部物理学科地球物理学課程卒業
  • 昭和30年(1955) 3月 東京大学数物系研究科地球物理専門課程修士課程修了
  • 昭和33年(1958) 8月 東京大学数物系研究科地球物理専門課程博士課程(気象学)退学
  • 昭和33年(1958)11月 理学博士(地球物理学)
  • 昭和33年(1958) 米国気象局 気象研究員
  • 昭和38年(1963) 米国海洋大気庁 地球流体力学研究所 上級研究員
  • 昭和43年(1968) - 平成 9年(1997) 米国プリンストン大学
    大気海洋研究プログラム 教授待遇講師
  • 昭和58年(1983) 東京大学 理学部 地球物理学科 客員教授
  • 平成 9年(1997) 地球フロンティア研究システム 地球温暖化予測研究領域 領域長
  • 平成14年(2002) 海洋研究開発機構 顧問
  • 平成14年(2002) - 平成15年(2003) 米国プリンストン大学
    大気海洋研究プログラム 客員研究協力者
  • 平成17年(2005) プリンストン大学 大気海洋研究プログラム 上級気象研究者 現在に至る
  • 平成18年(2006) - 平成25年(2013) 名古屋大学 環境科学研究科 客員教授

受賞

  • 昭和41年(1966) 藤原賞(日本気象学会)
  • 昭和42年(1967) Clarence Leroy Meisinger賞(アメリカ気象学会)
  • 昭和45年(1970) 米商務省ゴールド・メダル
  • 平成 4年(1992) カール=グスタフ・ロスビー研究賞(アメリカ気象学会)
    〃      第1回ブループラネット賞
  • 平成 5年(1993) Roger Revelle Medal(アメリカ地球物理学連合)
  • 平成 7年(1995) 朝日賞
  • 平成 9年(1997) ボルボ環境賞
  • 平成10年(1998) ミランコビッチ・メダル(欧州地球物理学会)
  • 平成22年(2010) ウィリアム・ボウイ・メダル(アメリカ地球物理学連合)
  • 平成27年(2015) ベンジャミン・フランクリン・メダル
  • 平成28年(2016) BBVA Foundation Frontiers of Knowledge Award
  • 平成30年(2018) クラフォード賞
  • 令和 3年(2021) ノーベル物理学賞

著書

  • 『Beyond Global Warming: How Numerical Models Revealed the Secrets of Climate Change』 Princeton University Press, 2020.1.14