2021/02/17

日本初記録となるクモヒトデ類の側腕板化石の発見

 

岡西 政典(臨海実験所 特任助教)

三井 翔太(東京海洋大学大学院海洋科学技術研究科 応用生命科学専攻 博士課程3年)

Ben Thuy(ルクセンブルグ自然史博物館 古生物学研究部 学芸員)

 

発表のポイント

  • 神奈川県三浦半島に分布する中期更新世(注1) の地層(宮田層)より、日本初記録となるクモヒトデ類の側腕板(注2)の化石を発見した。
  • クモヒトデ類の側腕板化石について形態学的な研究を行った結果、アカハコクモヒトデの化石である事が判明した。本種は現在でも相模湾以南の温帯域の砂泥底に広く生息している。従って本種の化石の産出は、当時の三浦半島がこのような温帯海域であったことを示唆する。
  • 本研究は、これまで国内では注目されてこなかったクモヒトデ類の側腕板化石について、種の同定(注3) と古環境推定への有用性を先駆的に示した。今後、側腕板化石の研究がクモヒトデ類の多様性の進化や日本列島の形成史の解明に貢献することが期待される。

 

発表概要

東京大学大学院理学系研究科の岡西政典特任助教らの研究グループは、神奈川県三浦半島にある宮田層(約30~45万年前)という地層から、棘皮動物(注4) であるクモヒトデ類の側腕板の化石を発見した。クモヒトデ類の体は数mmの炭酸カルシウムでできた骨片が組み合わさって構成されており、死後はそれらがバラバラに分離する。側腕板は、クモヒトデが持つ原則5本の腕の側面を覆う骨片である。クモヒトデ類は、種によってさまざまな海底環境に高密度で生息しており、その化石は示相化石(注5) として有用である。国内では、全身が保存された化石の研究が主であり、単離した骨片化石は注目されてこなかった。

本研究では、国内で初めてクモヒトデ類の側腕板化石に着目した。詳細な形態比較の結果、発見された化石は現生種であるアカハコクモヒトデの側腕板であることが判明した。

アカハコクモヒトデの化石が発見されたのは世界で初めてである。本種の現在の生息環境から、宮田層堆積当時の三浦半島は温暖な海の大陸棚または陸棚斜面であったことが推測された。今後、クモヒトデ類の骨片化石の研究が進むことで、日本のクモヒトデ類の多様性の進化や日本列島の形成史の解明につながることが期待される。

 

発表内容

研究の背景
棘皮動物門クモヒトデ綱は、細長い腕を器用に動かし、岩の下、泥等の堆積物の中、他の動物の上など、種によってさまざまな環境に生息する海産無脊椎動物であり、1 m四方の海底に1000個体以上密在した記録もあるほどに個体数が多い。クモヒトデ類の骨格は、数mmほどの炭酸カルシウムの骨片から構成されている。その形態は種ごとに異なり多様であるため、分類形質として重要である。それらは死後に解離して堆積物中に埋没し、化石として残りやすいことから、欧州では示相化石として古環境の推定に用いられてきた。国内においては、クモヒトデ化石の研究は主に全身が保存された化石を用いて行われてきたが、より存在量が大きいと思われる骨片化石については、その産出すらほとんど明らかにされてこなかった。

 

研究内容
そこで東京大学大学院理学系研究科附属臨海実験所の岡西政典特任助教、東京海洋大学大学院海洋科学技術研究科の三井翔太大学院生と、ルクセンブルグ自然史博物館のBen Thuy 学芸員からなる研究グループは、実験所近傍の三浦市南下浦町に位置する宮田層(約30~45万年前)とよばれる地層の露頭で、クモヒトデ類の骨片化石の探索を行った(図1)。

図1:本研究に用いた化石骨片のサンプリングの様子。神奈川県三浦市南下浦町の露頭にて、共著者の一人、三井翔太大学院生(東京海洋大学大学院海洋科学技術研究科)がたがねとハンマーで堆積物試料を採集中。

 

一抱えほどの砂を研究室に持ち帰り、水洗して篩にかけ、小さな化石を拾い出す作業を続けたところ、1~4 mmほどの小さなクモヒトデ類の側腕板化石が72点発見された。現生クモヒトデ類の側腕板との詳細な形態比較を行った結果、発見された化石は全てアカハコクモヒトデStegophiura sladeniの側腕板であることが判明した(図2)。

図2:相模湾より得られたアカハコクモヒトデの背面側の写真(A:撮影,幸塚久典[東京大学大学院理学系研究科附属臨海実験所])と、本研究で得られた、本種の微小な側腕板の化石(B)。

 

アカハコクモヒトデは、現在でも相模湾以南および日本海の水深40 mから380 mの砂泥底に広く生息している種であるが、化石として発見されたのは世界で初めてである。

宮田層からは、貝類の化石の産出も知られており、それらに基づいて黒潮・親潮の両方が流れ込む大陸棚という古環境であったと推定されている。従って、本種の化石の産出は、宮田層堆積当時の三浦半島が砂泥地の広がる大陸棚の海底であったことを支持する直接的な証拠となる。

 

社会的意義・今後の予定
本研究では、国内から初めてクモヒトデ類の側腕板の化石を発掘し、種を同定することで、その古環境推定への有用性を示した。これまで国内からは50種以上のクモヒトデ類の化石が認められているが、これは現生の種数(約340種)に比べると少ない。この要因の一つは、これまでの研究が全身化石のみに絞られていたことにあると考えられる。現生・化石の種多様性を考慮すれば、日本各地の海成層から新たにクモヒトデ類の骨片化石が発見される可能性が高い。そうした骨片化石を用いれば、各地域・時代におけるクモヒトデ類化石の群集組成、ひいては日本沿岸におけるクモヒトデ類の多様性やそれらを取り巻く古環境の時空間的な変遷を明らかにできると考えられる。これは、日本列島やその海洋生物の多様性の成り立ちに関する新たなアイデアを提供する重要な知見になる。今後、宮田層だけでなく、国内各地におけるフィールドワークを積極的に行い、各地層のクモヒトデ類の骨片化石を広範囲に調べることで、国内のクモヒトデ骨片化石の多様性や過去の海洋環境をより詳細に明らかにしていきたいと考えている。

 

発表雑誌

雑誌名 Paleontological Research
論文タイトル Fossil lateral arm plates of Stegophiura sladeni (Echinodermata: Ophiuroidea: Ophiurida) from the Middle Pleistocene of Japan
著者 Masanori Okanishi*, Shota Mitsui, Ben Thuy
DOI番号 10.2517/2020PR027
アブストラクトURL https://doi.org/10.2517/2020PR027

 

用語解説

注1 中期更新世

地質時代の区分の一つで、77万4千年~12万9千年前の期間。”チバニアン期”の名称で知られる。

注2 側腕板

クモヒトデ類の体を構成する数ミリ~数センチメートルの多数の骨片のうち、腕の側面を覆うもの。

注3 同定

生物の分類学上の名前を決定すること。

注4 棘皮動物

ウニ、ナマコ、ヒトデなどを含む海産動物のいちグループで、原則として星形の体を持つ。

注5 示相化石

その化石が産出した地層が堆積した当時の環境がわかる化石。

 

―東京大学大学院理学系研究科・理学部 広報室―