凍らせて、混ぜて、溶かすだけ 高い強度と成型性を持つ新しいゲル材料を開発
―身近なバイオマス素材を利用した汎用性の高い材料開発に新展開―
日本原子力研究開発機構
東京都立産業技術研究センター
東京大学大学院理学系研究科
概要
国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(理事長 児玉敏雄 以下、原子力機構という)物質科学研究センターの関根由莉奈研究員、中川洋研究主幹、先端基礎研究センターの南川卓也研究員、杉田剛研究員、地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター(理事長 奥村次德)の柚木俊二上席研究員、国立大学法人東京大学(総長 五神真)大学院理学系研究科の山田鉄兵教授の研究グループは、中性子線を利用して明らかにした高分子ー水の構造研究に関する知見を活かして、木材から得られるセルロースナノファイバーとレモンに含まれるクエン酸、そして水から構成される、環境にやさしい高強度ゲル材料「凍結架橋セルロースナノファイバーゲル」の開発に成功しました。
植物の細胞壁などに含まれるセルロースなどのバイオマス素材を活用した材料は、プラスチック由来の環境問題の解決策として注目を集めています。なかでも、バイオマス素材を原料とした生分解性ゲルは、環境浄化材や医療材料として幅広い展開が期待されています。しかし、一般的にバイオマス素材を原料とした材料には、強度や成型性に弱点があり、用途範囲が限定されていました。
この課題に対して、本研究グループは、氷の凍結現象に伴う物質の構造変化を利用することにより、高い強度と成型性を有するセルロースナノファイバーゲルを生成することに成功しました。
“セルロースナノファイバーを凍らせる”、“クエン酸溶液を混ぜる”、“溶かす”というごく簡単な工程で作製したゲルは、水素結合による強固な三次元ネットワーク構造を形成し、2トンの圧縮負荷にも耐える高い強度と、様々な三次元形状に成型できる高い成型性を示しました。さらに、環境を浄化する吸着剤として有用である可能性が高いことが分かりました。
図:今回開発した環境に優しい「凍結架橋セルロースナノファイバーゲル」
この新しい生分解性ゲル材料は、これらの優れた特徴を活かして、自然由来の素材のみを利用した環境にやさしいプラスチック代替材料や環境浄化材料、体内で一定期間後に分解する再生医療用材料などの機能性材料などへの応用が期待されます。
本研究は、原子力機構 物質科学研究センターが研究全体をとりまとめ、先端基礎研究センター、東京都立産業技術研究センター、東京大学大学院理学研究科と共同で研究を行ったものです。
本成果は、国際学術誌「ACS Applied Polymer Materials」のオンライン公開版(10月30日(日本時間))に掲載されました。
詳細については、日本原子力研究開発機構 のホームページをご覧ください。
―東京大学大学院理学系研究科・理学部 広報室―