2020/05/08

AIに電子の物理を学習させる方法を開発

 

東京大学物性研究所

東京大学大学院理学系研究科

 

概要

東京大学大学院理学系研究科物理学専攻の永井瞭大学院生、明石遼介助教、同大学物性研究所の杉野修教授らの研究グループは、AI技術などに使われる機械学習手法を応用し、物質の電子状態を計算する密度汎関数理論(DFT)における不完全な項を補完する方法を開発しました。小分子における高精度計算の結果を参照し、機械学習モデルにDFTにおける電子間相互作用の記述方法を学習させ、その項を用いたDFT計算をさまざまな分子に適用し精度検証しました。結果、これまで60年以上の研究で開発されてきた計算方法と同等かそれ以上の精度を示すことがわかりました。

物質のもつ性質の多くは電子によって支配されており、電子状態の理論的解明は物性の理解や高機能物質の探索・設計などにおいて重要な課題です。現在電子状態の計算には、計算コストの小ささからDFTという理論に基づく手法が主に使われています。しかし、この理論の中には電子間の相互作用について厳密に記述できない項が現れます。実用計算ではこの項は何らかの方法で近似されるのですが、これまで開発されてきた近似では単純すぎて、本来複雑であるはずの電子間相互作用を記述しきれておらず、計算精度に問題が生じうることが知られています。

今回の成果により、計算に電子間相互作用を精密に取り入れることが可能になりました。また本成果では記述・精度向上をさらに進める系統的方法も提示しており、今後さらなる電子状態の予測性能向上が期待されます。

本成果は英国科学雑誌npj Computational Materialsに2020年5月5日付けオンライン版に公開されました。

図 : 手法の概略図。いくつかの物質に対して、Schrödinger方程式を適用し高精度なエネルギー・電子密度を得ておき訓練データとする(左側)。訓練データがKohn-Sham方程式によって再現されるように、機械学習モデルで構成された汎関数(中央)を訓練する。その後、訓練された汎関数を任意の物質についての計算へ適用する(右側)。

 

詳細については、物性研究所 のホームページをご覧ください。

―東京大学大学院理学系研究科・理学部 広報室―