2020/03/21

直接観測でナノスケール化による金属の絶縁体化を完全解明

〜半世紀の問題解決と次世代ナノデバイスへの指針〜

 

東京大学物性研究所

東京大学大学院理学系研究科

広島大学

 

概要

東京大学大学院理学系研究科物理学専攻の伊藤俊大学院生(研究当時)と東京大学物性研究所の松田巌准教授、小森文夫教授、杉野修教授らの研究グループは、広島大学放射光科学研究センター、そして中国・清華大学のShu-Jung Tang教授、米国・イリノイ大学のTai-Chang Chiang教授の研究グループと共同で、本来金属であるビスマスの結晶が、ナノスケール(1ナノメートル = 10-9 m)まで薄くなったときに絶縁体に変化するメカニズムの完全な解明に成功しました。金属と絶縁体はそれぞれ電気を流す・流さない物質であり、エレクトロニクスを構成する基本要素です。物質をただ小さくするだけで金属と絶縁体が切り替わるこの現象は、半世紀前から数多くの研究が行われてきましたが、詳しいメカニズムは未解明のままでした。本研究グループは、物質内での電子の振る舞いを映し出す実験手法により、金属が絶縁体に変化していく過程の直接観測に初めて成功しました。その結果、ビスマス結晶の表面に存在する特殊な電子の影響によって、絶縁体化の現象が起こりやすくなっていることを解明しました。

この特殊な電子は近年注目を集める「トポロジカル物質」が一般に有する特徴であり、ビスマスもその一群に属します。トポロジカル物質は高速かつエネルギーロスの無い情報伝達を可能にすることから、次世代情報デバイスに向けて世界中で活発な研究が行われています。集積化の進む現在のエレクトロニクスにおいて情報素子のサイズは既にナノスケールに到達しており、さらなる高速化と省エネルギー化に向けて、トポロジカル物質のような新たな材料系をナノデバイスに加工していくことが求められます。本研究で見出されたナノスケールでの金属-絶縁体変換の新機構は、トポロジカル物質一般に適用可能なものであり、この研究展開における新たな枠組みを与えるものです。

本研究成果、Science Advances誌(米国東部時間3月20日(金)オンライン版)に掲載されました。

図1: (a) ナノスケールにおけるエネルギーの量子化の模式図。(b)ナノスケールまで薄くなったビスマス薄膜におけるエネルギーの量子化を、光電子分光法に観測した様子。数十ナノメートルの比較的厚い領域ではぼんやりと連続的であった分布が、数ナノメートルの領域では明確な縞模様を形成しています。

 

詳細については、物性研究所 のホームページをご覧ください。

―東京大学大学院理学系研究科・理学部 広報室―