銀河系最大級のゆりかご はくちょう座で見つけた星のたまごたち
国立天文台野辺山宇宙電波観測所
東京大学大学院理学系研究科
概要
はくちょう座方向、約5000光年の距離に位置する巨大分子雲複合体は、銀河系最大級の星形成活動をともなう領域の一つとして知られています。その中心部には多くの若い星々の集団が存在しています。この領域では、過去の観測によって太陽の数百万倍もの質量をもつ大量の分子ガスの存在が明らかにされており、現在も非常に活発な星形成活動がおこなわれています。分子ガスから星団の形成にいたる進化のプロセスを明らかにすることは、天文学における最大の課題の一つですが、はくちょう座領域はその星団形成の現場を調べる上で、非常に重要な天体です。
波長2.7mmの電波を放射する一酸化炭素の微量な同位体分子C18Oの観測は、星団を構成している大質量星の母体となる高密度な分子ガス雲(分子雲コア)を調べるための、最も一般的な方法のひとつです。しかし、はくちょう座領域における観測は、その領域の広さと観測装置の感度不足によって、これまで困難とされてきました。2014年に野辺山45m電波望遠鏡に搭載され、これまでの観測装置では不可能だった広視野、高感度な観測を可能にしたFOREST受信機を用いることによって、はくちょう座領域の大規模な分子雲コアの探査観測が実現できたのです。
東京大学の竹腰達哉特任助教、宇宙科学研究所の山岸光義研究員を中心とした研究グループは、本研究の結果、174個のコンパクトなC18O天体、すなわち「星のたまご」である分子雲コアを検出することに成功しました。これらの分子雲コアは自己重力で強く束縛されており、今後大質量星や星団に進化することが予想されます。また、これらの検出された分子雲コアの質量の分布の傾向が、我々の銀河における星で知られているものと一致していました。これは、はくちょう座のような大規模な巨大分子雲の星形成活動によって、銀河における星々の大部分が生み出されているという説を支持するものです。
この結果は、2019年10月1日発行の米国の天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal」に掲載されました。なお、本研究には、天文学教育研究センター 竹腰達哉特任助教が参加しています。
図 : 野辺山45m電波望遠鏡で得られたはくちょう座X領域の電波画像。赤が12CO, 緑が13CO, 青がC18O分子輝線の強度を示している。
詳細については、 国立天文台野辺山宇宙電波観測所 のホームページをご覧ください。
―東京大学大学院理学系研究科・理学部 広報室―