2018/06/25

細胞内ウイルスセンサータンパク質による新しい生体防御の仕組みを発見

 

高橋 朋子(生物科学専攻 助教)

中野 悠子(生物科学専攻 博士課程3年)

程 久美子(生物科学専攻 准教授)

 

発表のポイント

  • これまで機能が不明であった細胞内ウイルスセンサータンパク質LGP2が、RNAサイレンシング(注1)の促進因子であるTRBPと相互作用することで、特定のマイクロRNA群の機能を一斉に制御することを明らかにした。
  • TRBPは特定のマイクロRNA群と結合していることを初めて明らかにした。それらのマイクロRNAは、特定の遺伝子群の発現を一斉に制御していた。
  • LGP2とTRBPによるRNAサイレンシングを介した遺伝子機能の制御は、ウイルス感染細胞において生体防御機構として機能していると考えられ、抗ウイルス治療や核酸医薬開発への応用が期待される。

発表概要

ウイルスが細胞に感染すると、細胞内ウイルスセンサータンパク質によって検知され、からだを守るための仕組みである免疫応答が誘導されます。東京大学理学系研究科の高橋朋子助教、中野悠子(博士課程3年)、程久美子准教授らの研究グループは、これまで細胞内ウイルスセンサーのひとつであるとされながらも機能が不明であった「LGP2」というタンパク質が、遺伝子発現の制御機構であるRNAサイレンシングを促進する「TRBP」というタンパク質と相互作用することで、TRBPが結合する特定のマイクロRNA群の機能を制御することを明らかにしました。さらに、これらのマイクロRNAは、特定の遺伝子群の機能を一斉に制御していました。LGP2とTRBPによるRNAサイレンシングを介した遺伝子機能の制御は、ウイルス感染細胞において生体防御機構として機能していると考えられ、抗ウイルス治療や核酸医薬開発への応用が期待されます。

 

発表内容

細菌やウイルスが感染すると、生体は免疫応答という防御機構を引き起こします。免疫応答には、自然免疫応答と獲得免疫応答がありますが、自然免疫は免疫応答の初動で重要な役割を果たす即時対応型のシステムであり、サイトカイン(注2)の誘導を伴います。ヒトの細胞にウイルスが感染すると、細胞外または細胞内でそれぞれのウイルスセンサータンパク質(注3)がウイルス特有の構成成分を認識し、抗ウイルス性サイトカインの一種であるI型インターフェロン(IFN)の発現を誘導します(図1左)。

 

図1.ヒト細胞における抗ウイルス免疫応答とRNAサイレンシング
ウイルスが生体に感染すると、細胞外または細胞内でそれぞれのウイルスセンサータンパク質(TLR3は細胞外ウイルスセンサー、RIG-I, MDA5, LGP2は細胞内ウイルスセンサー)がウイルスRNAを認識し、抗ウイルス免疫応答を誘導する。一方、細胞内にはマイクロRNAという小さなRNAが内在的に存在しており、RNAサイレンシングと呼ばれる遺伝子発現制御機構により、多様な遺伝子機能を制御している。RNAサイレンシングには、TRBP, Dicer, Argonaute (AGO)タンパク質が関与している。これまで、外来核酸により誘導される抗ウイルス免疫応答と、内在核酸により誘導されるRNAサイレンシングは独立した経路であると考えられてきたが、本研究によりこれらは独立した経路ではなく、LGP2とTRBPの相互作用を介して相互に制御する関係にあることを見出した。

 

IFNは数百のIFN誘導遺伝子群(IFN-stimulated gene, ISG)と呼ばれるタンパク質の発現を誘導し、細胞を抗ウイルス状態にすることで、ウイルスから生体を防御します。細胞内ウイルスセンサータンパク質の中でLGP2は、その他のウイルスセンサータンパク質が持つIFNの誘導に必要なシグナル伝達に関わるタンパク質領域を持たないことから、これまで機能が不明でした。

一方、ヒトの細胞内には、長さ20数塩基のタンパク質をコードしない小さなRNAが存在し、RNAサイレンシングと呼ばれる遺伝子発現制御機構によって多様な遺伝子機能を制御しています。ヒトでは約2000種類のマイクロRNAが存在しており、ひとつのマイクロRNAの欠損が癌などの重篤な疾患に繋がるなど、その機能の重要性は近年非常に注目されています。

本研究は、まずヒト子宮頸がん由来細胞株を用いて、細胞内ウイルスセンサータンパク質であるLGP2と、RNAサイレンシングの促進因子であるTRBPが相互作用することを見出しました(図1右)。LGP2とTRBPの相互作用は、TRBPによるマイクロRNA前駆体への結合を阻害し、その結果、マイクロRNA前駆体の成熟が阻害されました(図2)。

図2.LGP2とTRBPによるRNAサイレンシングを介した遺伝子機能の制御の仕組み
LGP2はTRBPに結合することで、TRBPによるマイクロRNA前駆体への結合を阻害する。その結果、マイクロRNA前駆体の成熟が抑制され、標的遺伝子の発現が制御される。

 

次にTRBPと相互作用するマイクロRNA前駆体をRNAシークエンス解析(注4)により網羅的に同定し、バイオインフォマティクスを用いて、RNAの塩基対合力の安定性に着目した解析を行ったところ、TRBPはステム領域に二次構造上の共通の特徴をもつマイクロRNA前駆体にのみ結合していることを見出しました。マイクロRNA前駆体との結合に必要なTRBP中の活性部位は、LGP2がTRBPと相互作用するのに必要な部位と同一であり、両者は競合的に結合することで、マイクロRNAの活性を制御していました。

さらに、近年開発されたゲノム編集ツールであるCRISPR/Casシステム(注5)を用いてヒトLGP2ノックアウト細胞株を樹立し、マイクロアレイ解析(注6)を行うことで、LGP2とTRBPにより制御されるマイクロRNAは、特定の遺伝子群の機能を一斉に制御していることを明らかにしました。

本研究により明らかとなったLGP2とTRBPによるRNAサイレンシングを介した特定の遺伝子の機能制御は、ウイルス感染細胞において生体防御機構として機能していると考えられます。さらにウイルスなどの外来核酸により誘導される抗ウイルス免疫応答と、マイクロRNAといった内在核酸により誘導されるRNAサイレンシングはこれまで独立した経路であると考えられてきましたが、本研究により、これらは独立した経路ではなく、相互に制御する関係にあることを見出しました。本研究の成果は、抗ウイルス治療や、近年臨床応用への期待が非常に高い核酸医薬開発への応用が期待されます。

本研究は、日本学術振興会 若手研究(B)「哺乳類特異的な、RNAサイレンシングと抗ウイルス反応のクロストーク機構の解析」(研究代表者:高橋朋子、課題番号:15K19124)、若手研究「マイクロRNAによる遺伝子発現ネットワークの制御を介したヒトの生体防御機構の解明」(研究代表者:高橋朋子、課題番号:18K15178)、基盤研究(B)「次世代型CRISPRシステムの構築によるヒト遺伝子機能解明のための基盤技術開発」(研究代表者:程久美子、課題番号:15H04319)、新学術領域研究「ゲノム支援」などの支援を受けておこなわれました。

 

発表雑誌

雑誌名 Nucleic Acids Research (オンライン版:6月25日)
論文タイトル LGP2 virus sensor regulates gene expression network mediated by TRBP-bound microRNAs
著者 Tomoko Takahashi, Yuko Nakano, Koji Onomoto, Fuminori Murakami, Chiaki Komori, Yutaka Suzuki, Mitsutoshi Yoneyama, Kumiko Ui-Tei
DOI番号 10.1093/nar/gky575
論文URL https://doi.org/10.1093/nar/gky575

 

 

用語解説

注1 RNAサイレンシング

マイクロRNAやsmall interfering RNA (siRNA)という長さが20数塩基程度の短いRNAが、全長あるいは部分的に相補的な配列をもつ遺伝子のmRNAを切断したり、翻訳抑制して遺伝子発現を阻害する現象。RNAサイレンシングには、TRBPだけでなく、Argonaute, Dicer, TNRC6などのタンパク質が重要な役割を担うことがわかっている。

注2 サイトカイン

情報を細胞間で伝達する分泌タンパク質。

注3 細胞内ウイルスセンサータンパク質

細胞内に侵入したウイルスを感知するセンサータンパク質。ウイルスが細胞内に侵入した情報を伝えることで、細胞を抗ウイルス状態にする。

注4 RNAシークエンス解析

次世代シークエンサーを用いて、RNAの塩基配列を網羅的に解読できる大規模解析。

注5 CRISPR/Casシステム

近年開発されたゲノム編集技術であり、Casタンパク質とガイドRNAを用いて、特定の遺伝子を欠損させることが可能。

注6 マイクロアレイ解析

多数のDNA断片を基盤上に高密度に配置することで、細胞内の遺伝子発現量を定量的に比較解析することができる解析技術

 

―東京大学大学院理学系研究科・理学部 広報室―